K38 JAPAN
2008年4月に発足。米国に本部を置くK38の日本支部として、各地で水上バイクによる安全運航および救助・操船技術講習会や、マリンスポーツイベントにおける安全管理などを通じて、水上安全の普及・啓発活動を行っている。
水上バイク乗船時に、瞬時の判断を迫られることはしばしばあります。目で見て、耳で聞いて、五感で得られた情報をもとに行動するわけですが、その判断は「脳内の思考モード」が担っていると言われています。K38 JAPANの講習会でも、この思考モードについてかならず説明し、プロとしての行動ができるようトレーニングしています。
ということで今回は、脳内の思考モードと水上バイクの事故の関係性について説明していきましょう。
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私たちが行動する際、脳内では2つのシステムを無意識に使い分けて意思決定がおこなわれています。
「システム1」は脳内に入ってきたすべての情報を最初に処理していて、直感的で早い思考といえます。瞬時に作動して経験則で答えを出そうとすることから、かなりそそっかしいシステムともいえます。水上バイク乗船時は、こちらのシステムによって瞬間的に判断・行動することが多いでしょう。
対して「システム2」は論理的で遅い思考であり、頭を使って熟考するような難しい問題に対応します。ただしこのシステム2を働かせるには意識的な努力が必要です。
情報を処理するのはシステム1→システム2の順で、最終決定権はシステム2が持っています。
ちなみにこのような仕組みになっている理由は、エネルギーを節約するためだといわれています。それぞれのシステムは効率的に思考を分担し、最小限の負荷で成果を出せるように最適化されているようです。
そして水上バイクの事故にも、この思考モードが密接に関わっています。
たとえば過去の事故発生時における乗船者の経験年数を見てみると、「1年未満」が33%、次いで「3年未満」が27%と、全体の約半数が経験の浅いひとによるものです。
これだけではそれほど疑問を抱かないかもしれませんが、「10年以上」の経験者による事故割合も18%あり、5回に1回はベテランといわれるひとの事故となっています。
前者は経験不足によるシステム1の判断ミスが行動背景にあり、後者は経験豊富だからこその油断により、正確な判断ができなかったのではないか。
このように推測できるのではないでしょうか。
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水上バイクのように高性能なノリモノは瞬時に判断を求められることが多く、そういった場面でのミスが大きな事故に繋がる可能性もあります。
システム1は経験則に基づいて自動的に判断を下す傾向にありますが、その判断が本当に正しいのか、システム2を用いて考える訓練をしてみても良いのではないでしょうか。
「脳の思考システム」というものがあると頭の片隅に置いていただき、無理のない操船を心がけてください。