【インタビュー】一代で築きあげ家族4人でマリーナを切り盛り|PWC×FAMILY|河野家(房総マリーナ)

 

親子で同じ趣味を持つことに、憧れを抱くひとは少なくありません。

コミュニケーションのきっかけになったり、子どもが大きくなっても一緒の時間を過ごせたり、趣味が潤滑油となって関係が上手くいくこともきっとあるでしょう。

近年は水上バイクでも、子どもが免許を取得して親と一緒に楽しむケースが増えています。

ここでは水上バイクが繋ぐ様々な親子の物語を、少しだけ紐解いていきましょう。


千葉県の房総マリーナを営む
河野一家の物語

左から長女の瑛利果さん、次女の真奈美さん、母のまり子さん、父の信和さん

HWSM 房総マリーナは社長(信和さん)が一代で?

信和(父) そうですね。1990年からマリーナを始めました。小さいころからこの川(夷隅川)で遊んでいたし、身内に漁師がいたから漁船にも乗っていたので海や川に馴染みがあったし、この場所と縁もあったので。

HWSM 水上バイクとの出会いはいつごろですか?

信和(父) 1984年ごろにバイク仲間が「こんなのがあるからやってみたい」って日本に入ってきたばかりの水上バイクを見つけてきて、それから趣味で乗るようになりました。

少しずつ台数が増えてきたのでチームを作ったんですけど、それならちゃんと乗れる場所を確保しようと観光協会にオフシーズンの海水浴場の使用許可をもらったり。

そんなことをしているうちに「乗る場所を自分で作ってしまえばいいのでは」と思うようになったのも、マリーナを始めた理由のひとつです。

その当時はトレーラーもランチャーもなかったので、440や550といったシングルでも砂浜で降ろすのが大変だったんですよ。

だからひとりでも降ろせる場所を作りたいと思って。

HWSM マリーナ運営は最初から順調でしたか?

信和(父) 最初は房総マリーナの看板だけ掲げて、外で職人として働いてましたよ。事務所もないような状態で、お金もなかったから。

マリーナも船が1台か2 台置けるぐらいのコンクリートが打ってあったぐらいで、ホントにゼロからのスタート。

まり子(母) ゼロじゃなくてマイナスからスタート。大変でしたよ……(笑)。一文無しで牛乳も買えないぐらいでしたから。

HWSM マリーナをここまで運営してきて、もっとも苦労したのはどんなことでしょうか?

信和(父) やっぱり一番大変なのはお金の部分ですよ。お金で苦労したことは数え切れないです。

まり子(母) お客さんとの信頼関係でも苦労したことがありました。言った言わないでトラブルになって、そのままヤメちゃうひともいて。

修理のやったやらないってクレームも結構あって、そういうことでお客さんが離れていっちゃうのがツラかったです。

お金で苦労したのが1番ですけど、信頼関係は2 番目に苦労しました。

千葉県いすみ市にある房総マリーナは、目の前に夷隅川が流れ、数分で海にも出られる好立地
広大な敷地には水上バイクやボートの艇庫保管も可能で、都心から通うお客さんが多いとか

 

HWSM 34年間、夫婦で苦楽をともにしてきたわけですね。まり子さんもマリーナを始める前から水上バイクや船には馴染みがあったのでしょうか?

まり子(母) 夫がやっていたので、それに付いていったりはしていました。

信和(父) 長女が産まれて1か月ぐらいで海に連れて行ってたし、船の回航にも同行させていたので。

HWSM お子さんがそんなに小さいときに、海に連れて行くことに抵抗はありませんでしたか?

まり子(母) そのときはそんなに……(笑)。イヤじゃなかったのかな。しょうがない、というか(笑)。

自然な流れで一緒に海に行ってました。今思えば楽しかったですね。

HWSM 真奈美さんは幼少期から水上バイクや海が好きでしたか?

真奈美(妹) 私はキライでした。船も水上バイクも怖くて、乗っても「ウワー!!」ってずっと泣いてたイメージです。

まり子(母) 飛行機もキライだったよね。ずっと泣いてた。

真奈美(妹) 今は大好きなんですけど、小さいころはちょっとトラウマだったかも。

信和(父) 今は水上バイクに乗ったらかっ飛んでるから。

HWSM 瑛利果さんはいかがですか?

瑛利果(姉) 私はほとんど覚えてなくて……。20 歳超えたぐらいからの出来事しか覚えてないかも。免許取ったことすらあまり記憶になくて。

信和(父) 次女は16歳で免許を取ったけど、長女は遅かった。

まり子(母) ツーリングとかウェイクをやったりしてたけどね。

瑛利果(姉) 水上のことよりも、小さいころマリーナの敷地で自転車に乗って遊んでたこととかは覚えてるんですけどね。

真奈美(妹) お客さんに遊んでもらったりしてましたね。小学校の放課後は家に帰らずマリーナに来てたので。

信和(父) 夏休みの宿題なんかは全部お客にやってもらってた。

真奈美(妹) お客さんもお父さんお母さんみたいな感じでしたね。

HWSM 水上バイクの魅力はどこにあると思いますか?

信和(父) クルマとかバイクと違うのは、自由に乗れることですね。コースが無いから自分の好きなように走れるし、好きなだけスピードも出せるし。

規制やローカルルールはもちろん守らなきゃいけないけど、陸のノリモノとくらべて圧倒的に自由ですよ。あとは自分の操船ひとつで
動きが機敏になったり、乗りこなす楽しさもありますね。

HWSM 真奈美さんは幼少期にキライだった水上バイクが好きになったきっかけは?

真奈美(妹) 中学生とか高校生のとき、マリーナのツーリングイベントに友だちをたくさん連れてきてたんですけど、同世代の子たちとみんなでワイワイしてたら「あれ、なんか楽しいかも?」ってなりました(笑)。

HWSM 瑛利果さんは?

瑛利果(姉) はじめましてのひとでも水上バイクを通じてすぐに仲良くなれるから、そういう部分がいいなって思います。

HWSM 信和さんは趣味で水上バイクに乗られていましたが、そのころから娘さんたちと一緒に乗りたいと思っていましたか?

信和(父) 乗りたいと思って船名を(瑛利果さんの名前にちなんで)『エリー』にしてたんだけど、その当時はシングルしかなかったから一緒に乗れなくて。

そのあとマリーナを始めて仕事にしちゃったから、意外と遊びで一緒に乗る機会はなかったです。

仕事の合間に時間があれば乗ってましたけどね。マリーナを始めた当初はヒマだったから(笑)。

HWSM 今ではマリーナも忙しくなり、乗る時間もほとんどないと思いますが、それでもご自身の水上バイクを何艇かお持ちですよね。

信和(父) 時間さえあればやっぱり乗りますよね(笑)。好きなのもありますけど、自分が乗らないとお客さんにも楽しさを伝えられないじゃないですか。

自分が乗って体験していれば、若いお客さんにも話しができますから。

マリーナ主催のツーリングイベントでは、サトーエンジニアリング製の4ストロークX-2で先導
クラブハウス入ってすぐにJS 550と800X-2を展示。社長の趣味がひと目でわかるディスプレイ

HWSM 次はお孫さんと一緒に乗るのが楽しみだそうですね。

信和(父) 一緒にレースをやりたいですね。そのころには俺が80 歳になっちゃうけど(笑)。その前に宮古島の耐久レースには連れて行こうと思って。

HWSM 宮古島のKAZE耐久レースには毎年お客さんと一緒に参加していますよね。

信和(父) もう15 年ぐらいは行ってます。それもお客さんと楽しさを共有するためだけど、あとは宮古島の観光協会に少しでも貢献できればっていう思いもあって。

この辺(千葉県いすみ市)も観光でお客さんが来てくれないと町が成り立っていかないから、地元と協力して町おこしをしていかないと過疎化が進んでいくだけなので。

HWSM 房総マリーナでも地元との協力には力を入れていますよね。キッズネイチャーラバーズ(地元の小学生を招待して海と触れあってもらい、海の知識も学んでもらうイベント)に長年携わっているのもその一環ですね。

信和(父) この辺の子どもたちは大きくなると地元を離れるひとが多いけど、地元の良さを知らないまま出て行ってしまう。海もあるし、山もあるし、川もあるから、それをいすみ市で育った子どもたちには知っていてほしくて、キッズネイチャーは続けています。

2024年4 月、長女・瑛利果さんのお子さん『蓮央(れお)くん』が誕生。ご両親は待望の初孫にデレデレでした
生まれつき肌や髪の色素が少ないアルビノで、「私はそういうことがあるってまったく知らなかったので、少しでも多くのひとに知ってもらえれば」とのこと

アットホームだけどケンカも多い!?
家族ならではの悩みも

 

HWSM 今はご家族4 人とスタッフの方たちでマリーナを切り盛りされていますが、仕事の役割分担は決まっているのでしょうか?

真奈美(妹) 母が経理で、私たち(姉妹)が事務とたまに上げ下ろし。

信和(父) 俺は使いっ走り(笑)。

まり子(母) ほぼいないんですよ、マリーナに(笑)。

真奈美(妹) 法人会、警察、観光協会とか地域の活動が忙し過ぎて。

HWSM 外部とのやり取りは社長の仕事なのですね。

まり子(母) そのほうが好きみたい。ここにいるよりも。

信和(父) ここにいると3 対1でやられちゃうから(笑)。

HWSM 娘さんたちにマリーナを手伝ってほしいと昔から考えていましたか?

信和(父) そんなに考えてはいなかったけど、できる範囲で手伝ってくれたらとは。息子だったらもっとやってくれって話しになるけど、娘たちだからね。それぞれの人生がありますから。

HWSM おふたりはマリーナで働くつもりは……?

瑛利果(姉) なかったです(キッパリ)。全然なかったですけど、お客さんたちもみんないいひとだし、今は楽しんでやれてます。

真奈美(妹) 私は、う~ん、そのつもりだったかな~……。やりたいことがあればそっちをやろうと思ってたんですけど、大学を卒業するまで何もなく。そのまま今に至る感じです(笑)。

今はマリーナで働くことが大好きだし、天職だと思ってますけど。

HWSM 親子だからやりやすい部分はありますか?

瑛利果(姉) なんでも言えるところですかね。

真奈美(妹) 24時間いつでもお互いに対応できるのは、家族だからですね。仕事かプライベートかわからなくなるときもありますけど。

まり子(母) 家族だからケンカも多いですけどね。原因はだいたいココ。(信和さんを指差して)。

真奈美(妹) ココです(信和さんを指差して)。

HWSM どのようなことでケンカになったりするのですか?

まり子(母) 話しが通じないんですよ。マリーナにいないから(笑)。

真奈美(妹) 急に「あとやっといて」って丸投げされて、てんやわんやになったり。

HWSM 逆に親子だからやりづらい部分はありますか?

信和(父) やりやすい部分の方が多いけど、やっぱりケンカになっちゃうことですね。

普通の会社で社長と社員なら、「これやっておいて」「はい、わかりました」で終わることでも、家族だから「なんでやらなきゃいけないの?」って言い合いになっちゃったり。

ただマリーナは客商売だから、娘たちがいてくれた方がいい部分も多いですよ。お客さんにとっては自分より娘たちの方が言いやすいこともありますし。

真奈美(妹) 苦情はよく言われます。あと「社長はすぐ忘れるから覚えておいて」って。それで私もすぐに忘れちゃうので、最終的にこっち(瑛利果さん)に。

瑛利果(姉) 距離感が近すぎて良くもあり、悪くもありって感じですね。

HWSM そんなみなさんが切り盛りする房総マリーナは、どんなマリーナでしょうか?

信和(父) 家族でやっているからアットホームですよ。新規のお客さんでも飛び込みやすい雰囲気ではあると思います。

堅苦しくなったり敷居が高くなっちゃうと、入りづらくなっちゃうからね。

まり子(母) この辺は田舎なので、ノンビリした雰囲気も特徴ですね。お客さんもノンビリしているひとが比較的多くて。あとは娘たちがいてくれるので、若い世代の方たちでも考え方や話しが合うとは思います。

HWSM 娘さんたちが考えるマリーナのセールスポイントは?

瑛利果(姉) 保管料がめっちゃ安いです(笑)。あとはアットホームな雰囲気だから、お客さん同士もすぐに仲良くなれます、ひとりでも遊びに来てもらいたいですね。

HWSM 真奈美さんは?

真奈美(妹) 目の前の川で遊べて、海にもすぐに出られる立地なので、釣りのお客さんも多いです。川沿いでBBQもできますし、ほぼ年中無休でいつでも開いてますから、気軽に遊びにきてください。

親子のホンネトーク

ここからは親子別々にインタビュー!

直接言いづらいことや親子ならでは悩みなどをホンネで語ってもらい、お互いへのメッセージをボードに書いてもらいました。


親から子へ

HWSM 娘さんとしてではなくマリーナのスタッフとしてアドバイスはありますか?

信和(父) 家庭の流れでそのまま来ちゃってるから、社員と社長とか、そういう区別ができてないんですよ。メリハリがない。

まり子(母) 甘えちゃうんです。

信和(父) お互いそうなんだけどね。会社の社長として話していたつもりが、いつの間にか立場が逆転してたり(笑)。

まり子(母) それが他の社員にはどう見えちゃうのかなって。

信和(父) 良い関係といえば良い関係で、それがアットホームな雰囲気に繋がってるとも思うけど。

HWSM 社長は娘さんたちから怒られることもあるそうですが。

まり子(母) 夫が次々と新しいことを知らないうちに始めて、それを突然こっちに持ってくるからパニックになるんです。

信和(父) やりたいことがたくさんあるんですよ。

まり子(母) 夫への怒りが私まで飛び火することもあって。そうすると事務所がすごい険悪な雰囲気になっちゃって。大変ですよ。

信和(父) それも家族経営のダメなところ。

HWSM いつかマリーナ運営から一歩引くときが来ると思いますが、もし娘さんたちが後を引き継いでくれるなら、どのようなマリーナにしてほしいですか?

信和(父) 基本的には今までと同じでいいと思うんですけど、これからも遊び方はどんどん変わっていくと思うので、そこで存続していけるようにマリーナを運営していってほしいですね。

子から親へ

HWSM 一緒に働くうえで、ご両親に何か要望はありますか?

瑛利果(姉) 社長は報告・連絡・相談ですね。社長に言うことかな、これ(笑)。

真奈美(妹) すべてにおいて事後報告なんですよ。これやるからとか、あれやるからとか、すでに始まった状態で、あとは書類よろしくみたいな。

瑛利果(姉) それさえ直してくれれば他にはないです。

HWSM 瑛利果さんはお子さんが産まれてご自身も母親になりましたが、いつか一緒に水上バイクに乗りたいですか?

瑛利果(姉) そうですね。今年の宮古島の耐久レースにも夫がOKなら連れて行きたいです。

HWSM 真奈美さんもいずれお子さんが産まれたら?

真奈美(妹) 一緒に乗りたいですね。海のことも色々教えてあげたいです。私は泳げないので、まずは水泳から……(笑)。

HWSM 瑛利果さんのお子さんが大きくなったら、マリーナの仕事を一緒にやりたいですか?

瑛利果(姉) それは思わないですね。自分のやりたいことをやってくれたら。本人からやりたいって言われたら止めないですけど。

HWSM 今後どのようなマリーナにしていきたいですか?

瑛利果(姉) 今まで積み上げてきたものは残しつつ、女性ならではの目線でさらに良くしていけたらいいなと思います。

真奈美(妹) 今いるお客さんをもっと大切にして、もっと海に行きたくなるようなイベントをたくさんやっていきたいなと思います。


房総マリーナ
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