【初代アジアチャンピオン】小原聡将インタビュー|二刀流レーサーが見いだした世界と戦うための武器

2024年の振り返りと
2025年の展望

水上バイクとボートレースの二刀流レーサーとして活躍する小原聡将選手。

国内では無類の強さを誇る彼ですが、世界の頂点にはあと一歩届かない状況が続くなか、2024 年は悲願の世界チャンピオンをとるため、強豪が集うアクアバイクのワールドチャンピオンシップにも参戦。

世界のトップライダーとしのぎを削るなかで、自分に足りないあることに気づいたそうです。

小原選手も初参戦!
アクアバイクってどんなレース?

HWSM 2024年は海外で開催されるアクアバイクのシリーズ戦にも出場されて、水上バイクのレースにもさらに力を入れていた印象ですが、このアクアバイクとはどのようなレースなのでしょうか?

小原 UIMという団体が主催していて、パワーボートのF1というレースもやっているんですけど、その水上バイク部門という形でアクアバイクは開催されています。UIMはヨーロッパを本拠地とする団体なので欧州のシリーズ戦もやっているんですけど、自分は『ワールドチャンピオンシップ』という世界戦に参戦しました。

HWSM 他のレースとの違いはありますか?

小原 日本のシリーズ戦やタイのワールドカップ、アメリカのワールドファイナルとはマシンレギュレーションもルールも違います。日本や他の世界戦では予選があって、そこから決められた人数が決勝に勝ち上がって、(最大でも)MOTO 4まで走ってポイントを競いますけど、アクアバイクは予選がタイムアタックなんです。

フルグリッドは30人なので、それ以上のエントリーがあればまずは決勝に進むためのタイムアタックをやって、その次にクルマのF1と同じような感じで決勝のポールポジションを決めるタイムアタックがあります。

予選にはQ1とQ2があるんですけど、まずQ1は30人が一斉にコースを周回して、15分とかの制限時間まで毎週ラップタイムを計測します。そのベストラップで予選1位から30位までの順位が決まったら次はトップ10だけがQ2に進んで、さらに10分間タイムを計測します。そのタイムでようやく1位から10位の決勝グリッドが決まる感じです。

もちろん1位のひとがMOTO 1で一番有利なイングリッドの最内からスタートできます。自分も小さいころはF1レーサーを夢見ていたので、それと同じような形式を体験できたのは少しうれしかったです(笑)。今まで経験したことがない刺激をアクアバイクのレースではもらいました。

HWSM 予選が重要なレースですね。

小原 1位から5位はこのルート、6位から15位はこのルート、16位から30位はこのルートでコースに進入していく、というのが決まっていて、1位から5位が最短ルートでコースに入れるので明らかに有利です。だからアクアバイクのレースで表彰台にあがろうと思ったら、予選で5位以内に入らないと勝負にもなりません。

6位以降からスタートした時点で、どう頑張ってもコースに入れるのは6番目ですから。他のライダーのレベルも高いので簡単には抜けませんし、うしろからもアタックしてくるので順位をあげていくのもかなり難しいんです。自分にとって予選は通過すればいいものだと思っていたんですけど、その考え方を改めさせられました。

HWSM 予選から勝負は始まっていると

小原 たとえば12周のレースで15分ぐらい走るとしたら、今までは15分経ったときに自分が1位になっていればいいと思っていたんです。それがアクアバイクの場合は予選から全力を出し切って良いタイムを残さないと、表彰台にあがる権利すらなくなってしまう。

1周を早く走ることの大切さを練習のときから意識するようになりましたし、M-1(エムジーマリーンが主催するタイムアタックレース)みたいな大会で緊張感を持ってタイムを競うことも大事だなと感じました。

HWSM なぜアクアバイクのレースに参戦したのでしょうか。

小原 元々ヨーロッパでの開催が多いレースなので日本からは遠くて行きづらかったんですけど、2024年はベトナム、イタリア、インドネシアの3か国で開催されたので、アジアが2戦もあったんです。

あとは2023年のワールドカップで2位だったこともあり、UIMからサポートライダーのオファーをもらえたのも大きかったです。マシンの輸送費とかオフィシャルホテルの宿泊費をUIMが負担してくれたので、それもあって2024年はワールドチャンピオンシップに参戦することにしました。

HWSM 色々な条件がかみ合っての参戦だったわけですね。

小原 ホンネの部分を言うと、2023年のワールドカップで世界チャンピオンを狙える体制が整えられて、いけると思ったんですけど結果としては繰り上げで2位。実際は周りの失格が無ければ5位だったので、ヨーロッパ勢のレベルの高さを実感したんです。

自分も同じレベルの環境で切磋琢磨しないと、ワールドカップのぶっつけ本番ではそのレベルに到達できないと感じて、世界チャンピオンを取るために挑戦したというのも大きな理由です。

HWSM ヨーロッパのライダーがSKIクラスのトップを独占している現在、アクアバイクのレースが世界の最前線といっても過言ではなさそうですね。

小原 ワールドカップにはでていない速くて強いライダーもいましたから(笑)。自分のシリーズランキングは5位だったんですけど、トップの4人に勝てたのは9回走ったうちの2回ぐらいしかなくて。ベトナムで7位、イタリアで4位、インドネシアで7位だったので、結果的にも上には上がいることを痛感させられました。

ワールドカップでも優勝しているクインティン(・ボッシュ)だったりケビン(・レイテラー)は優勝しているので、自分もここで勝てるぐらいにならないと世界チャンピオンには届かないなと感じました。

HWSM 具体的に何が足りていなかったと感じましたか?

小原 ヨーロッパの速いライダーと自分とでは、そもそも乗り方が違いました。自分はボートレーサーになってから「さらに速くなったね」と言ってもらえるようになって、自分のなかでもボートレースの走り方を水上バイクで活かせていると感じていて、それが結果にも繋がっていたと思っていたんです。

ただそれでは海外のライダーに勝てなかったので、世界で結果がでている乗り方に自分も変えなきゃダメだなと。

HWSM それはどのような?

小原 ボートレースの船ってとにかく曲がらないし立ち上がりも悪いので、速く走らせるためには少し膨らんで、スピードをなるべく落とさない状態でターンマークに入っていくんです。それを水上バイクでも意識していたんですけど、ヨーロッパのライダーは膨らむようなことはせずに、一直線にブイに向かって力技で曲げるんです。最短距離を最高速で、みたいな(笑)。

自分としてはスピードを落とさないと曲がれないからロスがあると思っていたんですけど、エンジンパワーとライダーのテクニックでほとんどスピードを落とさずに曲がっていて。ただその乗り方ってものすごい体力が必要なんですよ。

10分も20分もそんな乗り方をしていたらすごい疲れるんですけど、海外のライダーはそれができる体力があって、そういう曲がり方ができるマシンを作ってきています。自分も根本的な考え方を変えていかないとダメだろうなと。

HWSM すでに完成されたライダーだと勝手に思っていましたが、まだまだ成長の余地はあると。

小原 モータースポーツなのでどれだけ速いマシンを用意できるかも大切ではあるんですけど、2024年のワールドカップは自分が選択したコースでは全レースでホールショットを取っていますし、十分戦えるマシンだったと思います。

そこから一歩先に進むためには15分間ガツガツ曲がっても失敗しないマシンのセットアップと、それを実行できる体力が必要ですね。

HWSM アクアバイクは他のレースとくらべてトータルの走る時間も圧倒的に長いそうですから、体力の向上にも最適でしたね。

小原 あのレースを走ったおかげで体力はかなり付いたと思います。あとはマシンへの負担も大きいので、メカニックの藤江さんにはエンジンの耐久性をできるだけあげてもらってアクアバイクには参戦しました。

ここでこれだけ走って壊れないんだから、ワールドカップでも壊れないだろうっていうメカニカルな部分の安心に繋がったのも大きかったですね。このレースに出場したおかげでたくさんの発見と成長がありました。

ボートレーサーとしての
戦績を振り返る

愛娘の縁(ゆくり)ちゃん

HWSM 水上バイクのレースにおける成果は絶大だったようですが、海外レースを増やしたことで本業であ

るボートレーサーの活動に影響はありませんでしたか?

小原 もちろんアクアバイクのレースにでなければボートレースの斡旋が入ったかもしれないですけど、海外に行く分はしっかり調整したので問題はなかったと思います。

一度B1に落ちてしまいましたけどすぐにA2に戻れていますし、水上バイクのレースがあるから仕事のモチベーションを高く維持できている部分もあるので。自分にとっては水上バイクに乗っているときが一番楽しいですから。いや、今は家族といるときが一番ですね(笑)。

その次に水上バイクに乗っている時間が大切で、同じレースでもボートは仕事、水上バイクはプライベート。どちらかが無くなってもダメですし、どちらも頑張っていくことが自分にとっての最善です。仕事を頑張って稼がないと海外のレースにも行けませんから(笑)。

HWSM B1級に降格したのは何か理由が? 落ちるような成績ではなかったと記憶していますが。

小原 情けない話しですけど、本番のレースを走る前の展示航走(選手やボートの調子をお客さんに見せるパドック的なもの)で自分は燃料を入れたものだと思っていたのですが、実は入れていなかったみたいで展示航走でガス欠してしまったんです。

その影響で本番レースが走れなくなってしまって、それに対する懲戒処分が2か月の出走停止で……。結果として出走回数が足りなくなってしまい、B1級に落ちてしまいました。100%自分のミスなので、二度と同じ失敗はしないように今はかならず燃料を確認しています(笑)。

HWSM そんな失敗はありつつも、現在はA1級への昇格に手が届きそうな勝率です。2024年のボートレーサーとしての成績を振り返って、満足していますか?

小原 自分がこれまで残してきた勝率のなかでも2024年の後期が一番の好成績だったので、自分のなかでは及第点だとは思っています。もちろんまだまだ上がある状況なので手放しで良かったとは言えませんけど、自分が勝つためのスタイルを少しずつ確立できて、それが結果にも繋がってきた実感はあります。

HWSM 順風満帆なレース活動を送れたようですが、水上バイクの海外レースが3戦も増えて多忙だったのでは?

小原 (取材の)前日まで福井で仕事をして、今日は千葉で水上バイクレース(M-1)にでていますからね(笑)。ワールドカップのときは出発の2日前まで仕事でレースをして、帰国して2日後には佐賀でレースをしていました。

たしかに忙しい1年だったような気がしますけど、それよりも仕事に行けば1週間近く家を空けることになりますし、水上バイクのレースも妻が娘を見てくれているから走れています。家族に負担を掛けちゃっている部分があるので、その分は結果で返さなきゃとは思っています。

ホームでの優勝を経て
いざ世界タイトルへ

写真提供:WGP#1 WATERJET WORLD CUP

HWSM 2024年6月には日本でアジアチャンピオンシップの第1戦が開催されました。自国開催の世界大会は力が入ったのでは?

小原 ホームですから絶対に勝たなきゃというプレッシャーはありました。自分も気合いが入っていましたし、チーム(SKU46Hレーシング)のみんなも同じ気持ちだったと思います。「何が何でもトシを1位にする」ってチームが動いてくれて、それが形になったのはホントに良かったです。

左からチームオーナー・渋谷さん、小原選手、縁ちゃん、鎌田六花選手、メカニック・稲坂さん、鎌田選手の母親・千耶子さんといったSKU46Hレーシングの面々

HWSM そしていよいよ12月にはタイでのワールドカップに挑みました。アクアバイクのレースに出ていたことで、世界におけるご自身の現在地を例年より把握できていたと思いますが、勝算はあると思っていましたか?

小原 アクアバイクだとエンジンの排気量が1600ccまでOKなんですけど、ワールドカップは1500ccなんです。ヨーロッパのライダーはアクアバイクのレース用に1600ccのエンジンでマシンを作っているんですけど、自分のゴールはあくまでワールドカップなので、1500ccのマシンでアクアバイクは戦っていたんですよ。

その性能差で勝てないこともあったんですけど、1500ccのマシンのなかでは自分が毎回トップだったので、同じ条件なら戦えるだろうと思っていました。マシンも日本で走っていたものと、アクアバイクで走っていたものをタイに送って、同時にテストしたうえでベストな状態に仕上げられたので。

今までにないぐらい最高の状態でレースを迎えられました。逆にこれで結果が残せないとヤバいかなって思っていたぐらいです。

HWSM その言葉どおりMOTO1では見事に1位でした。

小原 クインティンがスタートできなかったっていうのもあったんですけど、MOTO 1を1位で終えられたことで「これはホントにいけるぞ」とより強く実感しました。

HWSM そのうえでのMOTO 2でしたが……。

小原 ホールショットから1位で合流して、「このまま1位が取れればチャンピオンがかなり近づく!!」と気合いを入れ直して走ったんですけど、3周目にクインティンに抜かれて、4周目に抜き返そうとしたけど抜けなくて、5周目にケビンに抜かれて。

6周目以降で巻き返そうと思ったんですけど、バッテリーが壊れてしまってゴールできずにリタイア。マシントラブルは運がなかったと思うだけですけど、それよりも抜かれてしまったことと、抜き返せなかったことがかなりショックでした。やっぱりまだ自分に足りていないところがあるんだって。

HWSM 先ほどお話しされていた乗り方や体力的な部分ですね。

小原 でもレースはまだ終わっていませんし、なんとか気持ちを切り替えて翌日のMOTO3に挑んだんですけど、今回のワールドカップはアウトコースじゃないとホールショットは取れないコースだったんです。MOTO 2のゴールした順にスタートグリッドを選べるので、1位のクインティンはアウトコースを選んで。

自分はホールショットを取らなきゃいけないと思っていたのでクインティンとは逆の不利なインコースを選んだんですけど、やっぱりアウトの方が速くてMOTO 3は3位。MOTO 4はケビンより前にはでられたんですけどクインティンを抜くことはできず2位で、総合成績は3位でした……。

HWSM 世界3位は堂々たる成績だと思いますが、反省の色が濃い口ぶりですね。

小原 完全に自分の実力不足でしたから。走り方だったり、色々な部分が足りていなかったことを痛感させられました。メカニックの藤江さんだったり稲坂さんは勝てるマシンを用意してくれて、実際にホールショットも取れているので今回はいけると思っていたはずです。

チームのみんなもそう思っていたでしょうから、その期待に応えられなかったのが一番の反省です。

写真提供:WGP#1 WATERJET WORLD CUP

HWSM 目指していた世界チャンピオンには届きませんでしたが、初代アジアチャンピオンの称号は持って帰れました。

小原 ワールドカップでの優勝を目指している以上、アジアチャンピオンは絶対に取らなきゃいけないと思っていたので、まずはひと安心というか。アジアチャンピオンというタイトルが結果として残せたこと自体はよかったです。2025年こそはそれをワールドチャンピオンに上書きしたいですね。

「アジアチャンピオンは狙っていたので、取ってくれてよかった。世界で戦えるレーサーだから、できる限りのサポートはしていくつもり。『次こそは』って毎年言ってるんだけど(笑)。あと一歩だよ」と渋谷さん。

HWSM 2025年も海外レースには積極的に参戦する予定ですか?

小原 5月に大阪でワールドシリーズの初戦があって(アジアチャンピオンシップ併催)、12月のワールドカップももちろん出場する予定なんですけど(ワールドシリーズ最終戦、アジアチャンピオンシップ併催)、せっかくなので6月のワールドシリーズ第2戦ベルギー大会もでようか検討しています。

アクアバイクのシリーズ戦もでる予定ですし、海外レースが中心の1年になりそうです。もちろん最終目標はワールドカップでの世界チャンピオンですから、そこに照準を合わせて活動していきます。

HWSM ワールドカップの成績でいえば2023年は色々あっての2位でしたが実質5位、2024年は3位で、着実に近づいています。

小原 数字は確実にあがってきているので、5→3ときたら次は1しかないですよね(笑)。

HWSM チームのみなさんも、応援しているひとたちも「次こそは」と思っていると思います。

小原 日本に一番良いトロフィーを持って帰れるように頑張ります。


WGP#1 WATERJET WORLD CUP
https://www.jetski-worldcup.com/

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