【インタビュー後編】二刀流レーサー小原聡将の『現在地』|ボートレース初優勝までの道のりとジェットスポーツ悲願の世界チャンピオンに向けて

水上バイクとボートレースの二足の草鞋で活躍する小原聡将選手。

2025年8月にはボートレースで念願の初優勝を手にしましたが、そこまでの道のりは平坦ではありませんでした。

世界の最前線で戦うジェットスポーツにもフォーカスしながら、二刀流レーサーの現在地に前後編で迫ります。

後編はボートレース初優勝の舞台裏や、『水上バイクレーサー小原聡将』のイマとミライについて。

>>前編はこちら


3度目の正直でボートレース初優勝

――優勝のチャンスを2回逃しましたが、次のチャンスはすぐにやってきました。2025年8月のボートレース丸亀で、自身3度目のシリーズリーダーでの優出でした。

3度目の正直で、ようやく優勝できました。このときは過去2回の失敗のおかげで緊張も和らいでいて、力が抜けていた気がします。

――オール3連対(全レース3着以内)で自身最高成績での優出でした。

2番手のモーターだったんですけど、受け取ったときは自分のやりたいプロペラの方向性ではなかったので、一度叩いたらそれがバッチリで。そこからは微調整しかしていないんですけど、何をやっても上手くいくような感覚でした。前回の江戸川で優出したシリーズも似たような状態だったんですけど、その経験があったからプロペラが合っている、合っていないというのがより明確にわかるようになってきて。やっぱりプロペラが合っていないと上手くいかないし、合っていれば無敵の状態になるんです(笑)。その感覚がわかってきたのも丸亀での好成績に繋がっています。

――先ほども言っていたように成功体験の積み重ねですね。

そうですね。江戸川で失敗を積み重ねたことでようやく優勝できました。過去4回の優出はすべて江戸川だったので、自分は江戸川で初優勝するとばかり思っていたんですけど、丸亀だったのは意外でしたね(笑)。江戸川のように波もない水面でしたから、スタートさえ失敗しなければ勝てると思っていたので、そこだけに全集中していました。というかシリーズリーダーでの優勝戦はすべてトップスタートを切れているので、そのあたりの勝負強さみたいなものはジェットスポーツでレース慣れしている経験が活きている気がします。

――1マークで転覆することもなく、キレイに回って盤石の体制で逃げ切り、ゴールした直後にはガッツポーズも飛び出しました。

ボートレースの慣例としてSG(最上位のグレードレース)で勝ったときはガッツポーズをするイメージなんですけど、一般戦でやるひとはまずいないです(笑)。だから関係者のひとにはイジられたりもしたんですけど、自分としては勝ちきれない過程もあったので、喜びが爆発してしまいました(笑)。

――ご自身はもちろん周りのひとも、ひとしおの喜びだったのでは。

レースが終わったあとにスマホを見たら本当にたくさんの方が連絡をくれて、同じ支部ではない毒島選手(2024年の賞金王)からも連絡をいただいたり。1か月以上経っても「優勝おめでとう」って声を掛けてくれるひともいて、江戸川での失敗を見ていたひとは特に喜んでくれて(笑)。水上バイクのレース会場でもおめでとうの言葉をたくさんもらいましたし、あと「実はいとこなんだけど」っていう新たな親戚が現れたり。本当にたくさんのひとが喜んでくれました。

――デビューしてから12期目、約6年での初優勝でした。

それなりに年月は重ねましたけど、同期のなかではまだ4人とか5人しか優勝していないので、意外と早い方だったりします。残念ながら一度も優勝できずに引退してしまう選手もいますから。その一方で速いレーサーは選手人生が長くなることもあって、優勝回数がどんどん積み重なっていきます。これからは自分もたくさん優勝する側になりたいですね。

ボートレーサーは初優勝などの節目に、応援してくれたひとに記念品を配る風習があるそうです。小原選手はゴール直後の豪快なガッツポーズをあしらった記念Tシャツを作成

優勝賞金はどれぐらい?

――ちなみに一般戦の優勝賞金は80万円前後だと聞きましたが。

レース場によって賞金は変わるんですけど、丸亀は100万円ぐらいでしたね。あとは毎レースの着順でも賞金がでますし、もろもろの手当なんかもあります。

――ジェットスポーツでは2023年のワールドカップで世界2位になり、80万タイバーツ(当時のレートで約330万円)の賞金を獲得されましたが、今回の賞金はそれより?

少ないです(キッパリ)。一般戦だとそれぐらいですね(笑)。SGだと優勝賞金が3000万円とかなので、ゼロが1個多いですけど。5日間のレースでの収入と考えたら、十分な金額ではありますよね。水上バイクのワールドカップは1年間掛けてマシンの開発とテストを繰り返すので、時間も出ていくお金もケタ違いです。

――オール3連対での初優勝もあり、現在の勝率は6.3(2025年9月現在)と12期でのA1昇格が現実味を帯びてきました。

A1昇格には勝率6.2前後という条件の他に、最低出走が90走というのもあるんですけど、今は90走を目前にして6.3なので、なんとしても今期でA1に上がりたいですね。さっきも言ったように3着だと勝率が落ちてしまうので、今後は1着と2着をより多く取る必要があります。そう考えると、A1にいる選手はスゴいですよね。8点とか取る選手はまだまだ雲の上の存在です。

――ボートレースの今後の目標は?

A2に上がってからは初優勝とA1昇格が目標だったので、残すところは昇格のみとなりました。まずは12期(2025年10月31日まで)でA1に上がって、その次の目標はGⅠを走りたいですね。あとはいつか江戸川でも優勝して借りを返したいです(笑)。

ジェットスポーツの国内戦は
波乱の幕開けに

――次に水上バイクのレースについてですが、今シーズンも精力的に参戦されていますね。4月から国内シリーズが開幕しましたが、優勝を逃す波乱の幕開けとなりました。

自分の想像以上に周りの選手が速くなっていたことで、2ヒートとも祥吾(海老原祥吾選手)に勝てませんでした(どちらも2位)。自分は昨シーズンの最後のレース(12月のワールドカップ)から何も変えることなく開幕戦を迎えたんですけど、周りが驚くほど進化していましたね。会場の周防大島(山口県)は比較的穏やかなレース水面でマシン性能が顕著に表れることもあって、自分の技量だけでは覆せない差でした。国内のレベルが一気に上がったことで、このままではダメだと痛感させられましたね。

――2戦目は大阪でのワールドシリーズ開幕戦でしたが、こちらでも成績は振るいませんでした。マシントラブルもあったようですが。

総合4位でした。たしかにトラブルはあったんですけど、マシンが問題なかったレースで2位を走っていたときに、うしろから舞旺(佐藤舞旺選手)に抜かれて3位になったりもしたので。開幕戦ではホールショットを取られてマシンスピードで負けたと思っていたんですけど、うしろから抜かれたのでこれはいよいよだなと。焦りを感じつつ、楽しくもなってきました。

――3戦目の新潟でようやく今シーズン初優勝を飾りましたが、そこで何かが変わったのでしょうか?

海外戦で使う新しいマシンをテストを兼ねて持って行ったんですけど、それでもMOTO1は颯志(佐藤颯志選手)と祥吾に負けて3位でした。MOTO 2は運良く勝てた部分も大きかったので、劇的に何かが変わって挽回できたわけではありません。優勝できたのは良かったですけど、相変わらず「みんな速いな」という状況でしたね。

――その次はベルギーでのワールドシリーズ第2戦でした。結果は総合3位でしたが、この結果には満足していますか?

自分のマシンではなく現地でレンタルしたマシンだったので、表彰台に乗れるとも思っていなかったのが正直なところでした。結果として3位になれたのは万々歳でしたし、そのおかげでシリーズチャンピオンの可能性も残ったので。望みが繋がっただけでもOKです。

――8月にはインドネシアでアクアバイクの開幕戦がありました。昨シーズンに続き2年目の挑戦で、結果は総合6位でしたが世界で戦える手応えは感じましたか?

かなり良かったですね。MOTO 1が4位、MOTO 2が2位で、MOTO 3は2位を走っていて最後にマシントラブルでリタイアでした。レースにタラレバは禁物ですけど、走り切れていれば開幕戦から表彰台に乗れていたので、勝てる手応えは感じましたね。昨年は一度も(表彰台に)届かなかったので。

――そして9月に国内の最終戦がありました。わずかにチャンピオンの可能性を残して挑んだレースでしたが、MOTO 1からマシントラブルで14位。逆転チャンピオンの希望はここで潰えてしまいました。

ホールショット目前の最初のブイの手前で大きな波があって、自分としてはキレイに飛んでキレイに着水したつもりだったんですけど衝撃でコネクタが抜けてしまって。なんとかピットエリアまで戻って差し直してからは問題なく走れたんですけど、そのときには3周ぐらいラップされていて。そこから頑張ってビリは回避できたんですけど、それでも14位が限界でした。

――その鬱憤を晴らすようにMOTO 2は1位で締めくくることができました。

スタートは9位とかで後方からのレースだったんですけど、そこから追い上げていって最後は1位になることができました。

――開幕戦では周囲の速さに驚くような展開でしたが、最終戦までに後方からの追い上げが可能なぐらいには差が縮まったということでしょうか?

マシン差というよりも、自分の乗り方が少し進化できたかなと思います。昨シーズンの海外戦で自分と海外のトップライダーとでは乗り方に違いがあることに気づいて、彼らに勝つためには自分も変わらなくてはいけないと思ったんです。それから練習でも意識して乗っていたんですけど、開幕戦のころよりはその乗り方が身についてきたことで、周りとの差が少し縮まったかもしれません。

――最終的に国内戦はシリーズ2位で終えることとなりました。若手の台頭が顕著なシーズンでしたね。

世代交代の波が一気に押し寄せてきた感じです。年間ランキング上位の顔ぶれを見たら、それも納得だと思います。

――小原選手も31歳なのでベテランというにはまだ若いと思うのですが。

周りの大先輩たちとくらべれば年齢的にはまだ若手かもしれませんけど、レース歴でいったら19年なのでベテランの域に入ってきているかもしれませんね(笑)。ただ今シーズン台頭してきた選手たちは20代前半で自分よりもっと若いので、勢いを感じますし、面白くなってきました。

悲願の世界チャンピオンに向けて

――国内はこれでひと区切りとなりましたが、残りは海外戦ですね(2025年9月末インタビュー)。

アクアバイクのシリーズ戦は10月中旬ごろにイタリアで第2戦、10月末から11月に掛けてカタールで最終戦があります。あとは12月にタイでのワールドカップですね。

アクアバイクのシリーズ第2戦と第3戦では日本人初となる3位で表彰台にのぼり、年間ランキングも3位に

――シーズン前からワールドカップでの世界チャンピオンを最終目標に掲げていますが、世界チャンピオンを取るために残りの期間でやるべきことは?

インドネシアのレースでエンジンパワーは負けていないことがわかったので、それを操る自分の乗り方と、エンジンパワーをしっかり推進力に変える足回りのセッティング。あとは自分がやりたいターンをするために足回りを煮詰める必要があって、これがクリアできればチャンピオンに近づくと思います。

――悲願の世界チャンピオンに向けて意気込みをお願いします。

やるべきことをやって、しっかりと準備をしたうえで最後は気持ちだと思うので、自分は速い、自分はやれるとスタート前に自信を持って言えるように、最後まで努力を続けていきたいと思います。

――ボートレースでも次こそは、次こそは、が続いたあとの初優勝でした。

幸い水上バイクのレースでもあと一歩のところでたくさん失敗しているので、状況は同じですね(笑)。今シーズンこそは失敗しないで、世界チャンピオンになってきます。

水上バイクやボート、各種マリンスポーツの新鮮情報をお届けする、ホットウォーター公式LINE。雑誌企画『みんなのPWCライフ』への写真投稿もできます。
LINE友だち追加はこちら
いいね! お願いします