【インタビュー】音のプロがこだわりぬいた「ウェーブランナー専用チューニング」|ヤマハ製新型オーディオ開発秘話

音楽のヤマハと共同開発した新型オーディオ

2025年モデルのウェーブランナーには、ヤマハ発動機と音楽のヤマハが共同開発した新型オーディオが採用されています。

瞬間的に感じ取れる低音域の向上に耳を奪われがちですが、実は音の聴こえ方にもこだわったチューニングが施されています。

ここでは4年の歳月をかけて完成に至ったヤマハ製オーディオの開発秘話を聞いてみました。

インタビューに応えてくれたのはヤマハ発動機WV/海外ボート開発部 WV電装制御グループの山本叶恵さんと、WV 海外ボート開発部 PWC開発グループの加藤郁矢さん
音質だけでなく音環境や音の臨場感までこだわって開発された新型オーディオは、2025年モデルのSuperJetを除くウェーブランナー全モデルに採用されています
本記事ではマリンのヤマハは『ヤマハ発動機』、音楽のヤマハは『ヤマハ』と表記しています

新型オーディオができるまで

――ウェーブランナー専用オーディオの開発プロジェクトは、乗り物の『ヤマハ発動機』と音楽の『ヤマハ』どちらから声を掛けたのでしょうか?

山本 私たちヤマハ発動機の方からお声がけさせていただきました。以前にもやろうとしたことはあったようなんですけど、その時は立ち消えになってしまったみたいで。今回のオーディオ開発で改めてプロジェクト立ち上げとなりました。

――開発するにあたり、もっとも注力したのは?

山本 スピーカーの筐体部分ですね。開発する際に『ウェーブランナーの船体に合うスピーカー』ということでまずはデザインから着手したんです。それに合わせて内部も設計したんですけど、デザインコンセプトを維持しつつ信頼性も高めるために何度も設計の改良を繰り返して、たくさん失敗しながらなんとか完成までこぎ着けました。

――走行時の振動や波を飛んだときの衝撃など、水上バイクは過酷な条件下で走っていますからね。

山本 ヤマハ社内でも、これまで携わってきた車載スピーカーの開発で一番厳しかったそうです。防水性能もかなり頑張ったので、信頼性も担保しています。グリルに樹脂を使用するなどウェーブランナーの環境にも配慮しています。

――ノイズが多い状況下における『音環境の改善』も新型オーディオの特徴だそうですが、具体的にはどのような開発を?

山本 マルチバンドDRC(※)を用いることで、エンジン音や風切り音で埋もれてしまう小さな音の聴き取りやすさと、大音量時の迫力あるサウンドを両立しています。あとはコンサートホールの再現にも使われるオーディオ信号処理技術をもとに、自然で美しいサラウンド空間も実現してもらいました。

※DRC=ダイナミックレンジコントロール

速度に応じて音量が自動調整されるオートボリューム機能も新たに採用
速度が上がるにつれて音量が自動で大きくなるため、高速域でも音楽が楽しみやすい

――それらのチューニングはすべてヤマハの開発者が?

山本 サウンドマイスターというチューニングのスペシャリストの方がすべて担当してくださいました。その方には水上バイクの免許も取っていただいて、シートに座ったポジションでもっとも音が良く聴こえるようなチューニングをしてもらいました。

――ウーファーが6.5インチに大型化されて、低音が明らかに強くなった印象です。

山本 特にアメリカ人は低音の強い楽曲を好むこともあり、その部分はヤマハさんにも頑張っていただきました。実際にチューニングを担当していただいたサウンドマイスターの方にはアメリカまで足を運んでいただいて、現地の環境で最終的な音のチェックをしてもらいました。

――水上バイクの免許を取って、さらにアメリカまで足を運んだうえでチューニングをおこなうなんて、本気度がうかがえますね。

山本 日本では一度OKがでたんですけど、アメリカからの反応が微妙だったのでわざわざ現地まで行って再調整をしてくださいました。

――反応が微妙だったというのはどのような理由で?

山本 アメリカ人の好みと現地の環境ではまだ低音が足りなかったようでした。

加藤 日本だと広い湖や海をメインフィールドとすることが多いと思うんですけど、アメリカは周りが囲まれた狭いフィールドなどもあるので、同じ楽曲でも音の反響が違う点もありました。邦楽と洋楽の音の嗜好性の違いもあり、洋楽では音圧が高く、低音を強調される傾向があるため邦楽をよく聴く日本人とアメリカ人では求める音質の違いがありました。

――開発期間は何年ほど?

加藤 たしか4年ぐらいですね。

山本 私が入社する前からスタートしていたと思います(山本さんは入社3年目)。

――デザインや仕様変更など紆余曲折あったのですね。

山本 それこそサウンドマイスターの方にアメリカまで行っていただいたのもギリギリのタイミングだったので、最後の最後までこだわり抜いてもらいました。

――個人的に苦労した部分は?

山本 スピーカーの会議が、回を重ねることに雰囲気が重くなっていったこと……(笑)。

加藤 開発が難航していた時期はヒドかったですね。

――無事に世にでることになってひと安心ですね。

山本 まずはよかったという気持ちです。

――新しいオーディオのどこに注目してほしいですか?

山本 シートにまたがったときがもっとも音の違いを体感できるので、ぜひ機会があれば座った状態で聴いてほしいですね。

加藤 低音の改良も含めて音質も良くなっていますし、チューニングで音も聞こえやすくなっているので、全体的な音の良さを実感してもらえると思います。ヤマハさんのこだわりとしてスピーカーの取り付け角度は操船者を向いていて、位置としては下に付いているんですけど音は正面から聞こえるようなチューニングになっているので、それも実感してほしいですね。

撮影ライダーを務めてくれたPWC開発グループの袴田涼介さんも交えてハイ・チーズ

――このオーディオをスポーツボートにも採用する予定は?

加藤 今回はウェーブランナー専用設計で開発しているので、このまま流用する可能性はほとんどありません。やるとすればスポーツボート専用にイチから開発することになるんでしょうけど、それについてはニーズがあればこれから検討していくかもしれません。

――ちなみにヤマハ発動機とヤマハで「ヤマハブランドの価値向上を目指して共同で取り組みをおこなっています」と以前に伺ったのですが、今回のウェーブランナー以外にも何か事例はありますか?

山本 過去にはヤマハ発動機のSR400という二輪のタンクを、ヤマハさんがアコースティックギターをモチーフにデザインしたこともありました。技術的な部分でもいくつかコラボはしているので、今後もそういった動きはあるかもしれません。


ヤマハ発動機
https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/

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