【インタビュー】クローズドレースの世界チャンピオン『砂盃肇』が耐久レースで世界の頂点に王手

日本のランナバウトレースを長年に渡りけん引し、常にトップをひた走る砂盃 肇選手。

2025年は本職のクローズドレースから耐久レースにカテゴリを変更し、世界チャンピオンを目指して世界を転戦しています。

そしてレース歴30年を超える大ベテランは、間もなくクローズドと耐久の2クラスで世界チャンピオンを獲得する偉業を達成しようとしています。

最終戦を残すのみとなったこのタイミングで、耐久レース参戦の理由やクローズドレースとの違い、そして世界チャンピオンへの手応えと意気込みを語ってもらいました。


なぜ耐久レースに参戦?

photo/Jin Omura

2025年から従来のクローズドレースではなく耐久レースにカテゴリを変更したのは何か理由があったのでしょうか?

チームの方針ですね。今シーズンは耐久レースで世界を取りにいこうと。マリンメカニック製の耐久レース仕様のボートを世界に知らしめるという目的もありました。

国内シリーズは例年と変わらずクローズドレースに参戦されていますね。

耐久仕様のボートでどこまでいけるか挑戦してみたんですけど、(シリーズチャンピオンは)ちょっと厳しそうですね(笑)。挙太くん(奥 拳太選手)には敵わなかったので。うまくいけばチャンピオンを取れる可能性もあったんですけど、一番の目標は世界一なので、今年は耐久レースで頑張ります。

海外の耐久レースはどのようなルールですか?

8月にインドネシアで開催されたアクアバイクのレースに出場したんですけど、そこはかなり過酷でした。1日に40分のレースが2ヒートあって、それが3日間続きます。サバイバルレースですね。今回はそれほど波がなかったですけど、荒れていたらもっと過酷だったはずです。自分はマシントラブルで走れなかったんですけど、3日目になると選手はヘロヘロでした(笑)。

自分がメインで参戦しているワールドシリーズは1日に40分のレースが1ヒートあって、それが2日間なので少し強気なマシンセッティングで持ってくるライダーが多いですね。

コースはどのような?

クローズドレースほどタイトではないですけど、それなりにキツいコーナーが何か所もあります。オーバルでただグルグル回るようなコースではないので、トップスピードとか耐久性だけじゃなくてそれなりに曲がるマシンじゃないと勝負にもならないような感じですね。

耐久レースへの移行で
トレーニング方法を変更

本格的にクローズドから耐久にシフトするうえで苦労したことはありましたか?

やっぱり体力面の強化ですね。トレーニングも持久力を高めるような内容に変えました。

普段はどのようなトレーニングをしていますか?

メインは毎週日曜日にマシンに乗って練習するのと、あとは平日の1~ 2日はジムに行っています。最近は足腰を重点的に鍛えていますね。前は腹筋背筋とか上半身をメインで鍛えていたんですけど、耐久にシフトしたことで変えました。

レース前は食事やお酒を節制することはありますか?

泥酔したり潰れるような飲み方はしないですよ(笑)。お酒は大好きですけどたしなむ程度にしています。若いときはそれこそ浴びるように呑んでいましたけど、サポートを受けている身ですからベストを尽くせるように節制はしています。

最大馬力は700→400にダウン
最後まで走りきれる耐久性を重視

写真はクローズドレースで使用していた旧型のマシン

マシンのセッティングも耐久レース仕様に変更されていますか?

最後まで走りきらないと話しにならないので、パワーはそこまで上げず耐久性重視で、あとはライダー勝負みたいなプランにしています。

馬力もかなり落としていると伺いました。

GPマシンは600とか700馬力ぐらい出ていたと思いますけど、耐久仕様だと400ぐらいまでは落としています。とにかく壊れないことを重要視した仕様ですね。

トップスピードはどのぐらい出ていますか?

耐久マシンはトップスピードが出る仕様になっているので、この馬力でも144km/hぐらいまでは出るようにしています。GPマシンは150km/hぐらいでしたけど、そこまでに達する低中速の加速に重きを置いた仕様だったので。だからトップスピードは馬力ほどの差はないんですけど、加速性能がまったく違いますね。

あとは耐久だと人間だけじゃなくてマシンの耐久性も必要なので、ある程度の軽さはありつつ必要なところは強化しています。GPマシンみたいにパワーウェイトレシオを追い求めて軽量化すると、ハルにクラックが入ったりするので。そういうノウハウをマリンメカニックは持っているので、自分のマシンにはそれがすべて反映されています。

来年には今シーズンの経験をもとに改良したボートが一般販売されると思うので、誰でもハイスペックな耐久マシンが手に入るようになると思いますよ。

 

GPマシンよりは金銭的な負担も少ないですか?

全然少ないです(笑)。天と地の差です。シーズン中も壊れにくいので、耐久マシンの方が懐に優しいですね(笑)。

マリンメカニック製の耐久仕様のマシンはどこがすぐれていますか?

ハルについては世界トップクラスの技術力とノウハウを持っているので、ただ軽くするだけじゃなくてどこを強化する必要があるとか、しっかり加味したうえで開発しています。あとはエンジンについてもここまでは大丈夫だけどこれぐらいから厳しくなる(負荷が大きくなる)とか、長年のレースでの経験を活かしたセッティングは今崎さん(マリンメカニック代表)しかできないことだと思います。

MOTECでの制御についても世界トップレベルの経験を持っているので、「1ヒート目だから抑えめにしといたよ」とか、「2ヒート目は少しパワーを上げていこう」とか現場でも柔軟に対応してくれます。

RXT-XではなくRXP-Xを選ぶのは何か理由が?

先ほども言ったとおり最近の耐久レースは意外とコーナーがキツいコースが多いんですよ。曲がれないマシンだと抜かれてしまったり差を縮められることもありますし、逆に曲がるマシンだったらそれがアドバンテージになります。今のマシンは直線の安定性も向上しているので、総合的に判断してRXP-Xを選んでいます。

自国開催の開幕戦を見事に制覇
2戦目も好走で世界チャンピオンに王手

WGP#1 WATERJET WORLD SERIESのEndurance Openクラスに参戦(photo/Jin Omura)

2025年から耐久レースの世界チャンピオンを目標に、世界を転戦するワールドシリーズの舞台で戦っています。、初戦は日本での開催でしたが、プレッシャーはありましたか?

もちろんプレッシャーは感じていましたし、レース自体も悪天候で1日中止になるような状況で自分のレースが何時なのかもわからず、かなりバタバタしていたんですね。そんななかでも自国開催のレースでしっかり勝てたのは良かったですし、ここで勝ったから2戦目のベルギーにも弾みが付きました。

ベルギーでの第2戦も見事に2位表彰でした。

自分のマシンを送ったわけじゃなく現地でイチから作ったので、ひとまず表彰台が目標でした。ストックマシンでかなり厳しい状況でしたけど、なんとか2位になれたので最終戦のタイでの世界チャンピオンに向けて繋がりました。

現在同ポイントでシリーズ1位ですから、最終戦の勝者がワールドチャンピオンですね。

タイでメドリー(同ポイントで首位のフランソワ・メドリー)とガチンコ勝負です(笑)。彼からもベルギーでは「よくあのマシンで2位になったな」と言われたので、プレッシャーを掛けられたんじゃないかなと思います。

チャンピオンへの手応えはありますか?

いけると思います。最終戦は自分のマシンで走れますし、初戦よりさらにいい仕上がりになっているので。ただ自分もメドリーもホールショットで先頭をぶっちぎるような展開にはならないでしょうね。壊れたら終
わりですから(笑)。マシンが止まった瞬間、相手に勝ちを譲ることになってしまうので、そういった部分も含めて面白いレース展開になるんじゃないかなと期待しています。

チャンピオンを期待しているひとも多いと思います。

昨シーズンは不運なことが続いて不本意な結果でしたけど、諦めずに今シーズンもベストを尽くして世界チャンピオンまであと一歩のところまできました。「砂盃を応援してよかった」と思ってもらえるようなレースをするつもりなので、最後まで応援よろしくお願いします。

第 一戦が1位、第二戦が2位で、フランスのフ ランソワ・メドリー選手と同ポイントで現在暫定トップ。12月に開催されるタイでの最終戦で雌雄を決します

マリンメカニック
http://www.m-mecha.jp/

撮影協力
ジェットフィールド湘南
https://jetfieldshonan.jp/

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