生駒 淳の国内レース参戦記#06|JJSA全日本選手権シリーズ4th STAGE 宝達志水 千里浜大会

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2021 JJSA全日本選手権シリーズ 4th STAGE 宝達志水 千里浜大会
石川県 宝達志水 千里浜 2021年7月17日~18日

生駒 淳 Jun Ikoma
国内だけにとどまらず、世界中のレースに積極的に参戦する日本有数のトップライダー。2011年よりJJSFに参戦し、国内では2015年と2017年にはPRO RUNABOUTでシリーズチャンピオンに。海外では2012年にKINGS CUPで2クラス制覇、2018年にタイのJET SKI PRO TOURでシリーズチャンピオン、2019年にフィリピンのNATIONAL JET SKI RACEでシリーズチャンピオン、2019年のIJSBA WORLD FINALSで世界2位と、輝かしい成績を残す。

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前日譚|大荒れだった銚子大会の代償

レース海面が大荒れ模様だった前回の銚子大会は、体への負担もかなりのもの、だったようです。終わった直後はなんともなかったので、気づいていなかったんですよね。

翌日から動画撮影でヤマハの新型SJをハイエースに上げたり下ろしたりしていたら、腰を痛めてしまい歩くこともままならない状態に……。

実は自分は中学生のときから腰痛がひどかったのですが、EMS(電気により筋肉を自動的に動かすトレーニング機器)のジムに通うようになってから改善。この4年間は一度も腰痛になりませんでした。

今年は色々あってジム通いをやめていたのですが、そのとたんにこんなひどい腰痛に襲われるとは。やっぱりジムの効果はあったのだとこんな形で実感しました。

歩くことはもちろん、朝起き上がることも、靴下を履くことも、イスに座ることも難しい状態なので仕方なく病院へ。先生がハンマーで膝付近をポンと叩くも反応ナシ。「ヘルニアですね!」という診断でした。

その後は毎日欠かさず鍼治療を受けてなんとか歩けるようにはなりましたが、ベストコンディションからはほど遠い状態。

前回のJJSA銚子大会は海でのマシンテストができることや、会場が関東だったから出場しましたが、自分は今年JJSAのシリーズ戦に参戦するつもりはありませんでした。

千里浜は出なくてもいい……かな?

ポイントもランキングもまったく気にしていないので、無理をする理由は……、ああ、ありました。前回大会で砂盃さんから「千里浜で勝負しよう」と誘っていただいたんだった。これは行くしかない。

本命のJJSFも同日開催だったのですが、それを蹴って千里浜大会への参戦を決意。しかし腰は相も変わらず最悪の状態。さてさて、どうしたものか。

2021年7月16日(金)|いきなりのマシントラブル

今回のレース会場である石川県の千里浜なぎさドライブウェイには、朝9時ぐらいに到着しました。

ここ千里浜といえば「千里浜なぎさドライブウェイ」が有名で、日本で唯一の車が走れる砂浜です。しかしこの日は砂が乾いていたようで、そこかしこでスタックしている車が。それを除けた車がさらにスタック……というなかなか大変な状況に。

自分も4tトラックだったので無理せず、波打ち際から離れた場所に停めてレースの準備をしました。

◇ ◇ ◇

この日は午後からプラランがあったのですが、自分は残念ながらマシンの調子が悪くて走れませんでした。まあ腰も痛かったので、自分とマシンどちらの調子が悪いのかよくわからない状況だったんですけどね(笑)。

というのは冗談で、全開から突然エンジンが止まったり、アクセルを握ってもフケなかったり明らかに調子が悪かったんです。メカニックの殿井さんに診てもらうと、「これはエンジンを載せ替えた方がいい」ということになり、殿井さんはマシンを持って琵琶湖のお店まで戻っていきました。

自分は他のひとからマシンを借りて、とりあえずコースを覚えたらこの日は終了。マシンにまたがれるぐらいは回復していますけど、レースなんてホントに走れるのかしら?

今回はのお宿は羽音碧々で、夜は居酒屋ぼうぼうという魚屋さん直営の美味しい居酒屋さんに行きました。

そこで食事をしていると殿井さんから連絡があり、「エンジンは載せ替えずに修理しよう」と相談がありました。

修理するとなれば、徹夜での作業になるはず。自分の腰の状態では満足に乗れるかもわからないので、載せ替えた方がラクなら載せ替えで、と言ったのですが、殿井さんとしては予備のエンジンを温存したいということで、徹夜で作業して朝までにマシンを持って来てくれることになりました。

2021年7月17日(土)|激痛に耐えながらのレース

朝起きても腰の状態が全快している、なんてことはなく、相変わらず最悪の状態でした。

たくさんのひとが心配して痛み止めを持って来てくれたのですが、飲み慣れてしまうと大事なときに効かなくなる気がするので、自分は普段から薬は飲まないようにしています。

腰が痛くなってからも飲まずに耐えてきたので、HEAT 1の直前までは我慢するつもりです。

午前中のレースがすべて終わり、早めの昼休憩。午後イチからは自分がエントリーしているAQUA BIKE R/A GP1のプラランがスタート。

いつもなら先頭を走るのですが、今回は一番うしろを走りました。理由は全開で走れる気がまったくしなかったから。

その後プラランが終わりレースまで30分というタイミングで、ロキソニンを2錠飲みました。

◇ ◇ ◇

今回のスターティンググリッドもくじ引きの抽選で、自分はアウトコースを選択しました。プラランで1周だけインコースを走ったのですが、コースレイアウトがタイトで今の自分には少々ハード。

ということでスタートからゴールまでアウトコースだけ走る作戦でしたが、何がなんでも1位を獲るレースではないので、痛みに耐えきれなければリタイアするつもり。直前まで温存したロキソニンの働きぶりに期待です。

スタートのタイミングは上手くいき、アウトコースの1位で合流も1位でした。マシンはいつも以上に速いぐらい絶好調で、徹夜で作業してくれた殿井さんに感謝です。

腰は激痛でしたが、なんとか走れてはいます。そしてホールショットを獲ってしまったら、腰が痛いなんて言ってられません。何より「生駒は走る」と信じて徹夜で作業してくれた殿井さんのためにも、このまま1位でゴールすることを決意。

2周目に2位のマシンが止まり、自分と後続艇にはかなりの差があることに気づきました。ここでペースを落として、腰に負担がかからないような乗り方にチェンジ。しかし自分のペースが遅すぎたのか、4周目で一気に後続艇が追付いてきました。

5周目ではアウトコースを走る自分を抜こうと後続艇がインコースに行ったのですが、差は縮まらなかったのでアウトコースをこのペースで走っていれば抜かれることはなさそうです。6周目も後続艇はインコースに行きましたが、やはり差は縮まりません。

そして9周目? 10周目? のバックストレートで2位のライダーが笛を吹かれ、ブラックフラッグで失格に。最初はすぐ前方を走っていた自分が失格かと思い、マーシャルの方を目で追ってしまいました。

自分ではなかったことを確認してパッと前方に視線を戻すと、激痛の影響か、熱中症なのか頭が真っ白に。どの方角に向かうか、ブイをどちらに回るのかもわからなくなっていました。

すぐに我に返り、意識もしっかりしていたのですが、どうしてもコースが思い出せません。

安全のために他のライダーのうしろについて走っていましたが、どうやら先行艇は周回遅れだったようで、あっさりコースを譲られてしまい、また先頭に……。

自分がミスコースしているのはわかっていましたが、なんとかレース終了まで走りきりました。

レース終了後、本部テントにライダー全員が呼ばれて状況の説明がおこなわれましたが、どうやらスタート直後に2艇がマシントラブルでリタイア。その後自分を含む4艇がミスコースで失格。まともに走ったのは2艇だけという残念なレースになってしまいました。

2021年7月18日(日)|思いがけず表彰台に

今日は朝イチにプラランがあり、その後すぐにR/A GP1のHEAT 2が始まります。とりあえずプラランは痛み止めを飲まずにスタート。前日同様、ゆっくり一番うしろを走ります。

何があってもコースだけは間違えないように頭にたたき込み、その後すぐにレースがスタート。

チームテントの前から暖気運転をしてスターティンググリッドに向かうとき、この日はじめてアクセルを全開にしたのですが、何か違和感を感じました。

マシンが遅い……?

すでに他のライダーはスターティンググリッドに並んでいますし、今さらどうにもできないのですが、ホルダーのひとに「マシンの調子が悪い、ブーストが掛かってない」と伝えてからとりあえずスタート。

今回もアウトコースからスタートしましたが、スタートと同時にやっぱり! というぐらいマシンは遅く、ブーストが掛かっていない感じでした。アウトコースの3位、合流を4位でホームストレートを通過。

なぜか回転が上がらず、ターボのブーストも掛かっていない感じなので上位を目指すのは難しそうですが、リタイアするには諦め切れない順位。エンジン自体に異常がなさそうなこともあり、ひとまずこのまま走ってみることに。

先頭集団にはまったく追い付きませんが、目の前を走る3位のライダーを抜けば表彰台が見えてくる。そう思って頑張ったのですが、マシンは遅いし腰は痛いしで、逆に離されていくばかり。

そうそう、結局ロキソニンも飲まずに走り出したので、なかなかの激痛なのです。

やっぱり諦めてリタイアするか……と一瞬頭をよぎったそのとき、1位のマシンが止まっているのが視界に入りました。「やっぱり諦めずに走っていれば良いことがあるかもしれない。エンジンは大丈夫!」と思い走り続けました。

さらに代わってトップを走っていたライダーもスピードダウンし、棚ぼた的に2位までランクアップ。とうとう1位が見えてきましたが、残念ながらそこまではうまくはいかず。

マシントラブルと腰の不調を抱えながらの2位なら御の字です。

◇ ◇ ◇

次のHEAT 3は最後の方なので、ここからしばらくは休めます。そのあいだ、色々なひとが自分のために動いてくれているのに、自分は何もできない、何も役に立てないことが非常に悔しかった……。

みんなは「腰が痛いんだから動かないで休んでて」と言ってくれますが、事情を知らないひとが見れば疑問に思うかも知れません。

「座って見てるだけなんだ」

「何もしないんだね」

そんな声が聞こえてきそうで、その場にいるのがツラかったです。

とはいえ自分のことすらまともにできず、ウェットスーツをひとりで着るのも大変な状況だったので、結局何もできないのですが……。

◇ ◇ ◇

HEAT 3もロキソニンは飲まず、代わりにいただき物の神経の痛みだけを取る薬を飲みました。

スターティンググリッドはこのHEATもアウトコースを選択。スタートのタイミングも上手く決まり、アウトの1位で合流も1位に。

ここから地獄の15分+1周が始まります。

レース海面は午前中より波が高く、普段なら大好物ですが今の自分には最悪なコンディション。波で跳ぶと腰に響くので、着水のたびに腰を浮かせて衝撃を吸収していました。そのしわ寄せが腕と膝にきて、かなりハードです。

ただトップを走っている以上、自分からスロットルを緩めることはできません。ただただ「お願いだから早く抜いてー!」と祈るばかり。抜かれれば諦めがつきますからね。

そうはいっても痛みをこらえて本気で走っているわけで、そう簡単には抜かれません。

4周目に後続艇の砂盃さんがインコースに行ったので抜かれると思いましたが、逆に差が開いて合流。やっぱりアウトコースの方が全然速いんだと思い、その後もずっとアウトコースを走ることに。ええ、やすやすと抜かせるつもりはありません(笑)。

5周目は砂盃さんも同じ考えだったみたいで、アウトコースに来ました。でも6周目にもう一度インから仕掛けてきます。

これはさすが世界チャンピオン。

自分との距離があるときはアウトコースで差を詰め、近づいたらインから抜きに来るという作戦です。

自分もそれを理解していたので合流前にペースを落とし、うしろを渋滞させたら選択コースのちょっと前で急加速。アウトコースに入るころには差が開くように走っていました。

もちろん砂盃さんもそれを理解しながらの駆け引きで走っているので、普段ならこんなに楽しいレースはありません。でも、今日はそれどころじゃないんだ(涙)。

「早く抜いてくれー」「これ以上いたぶらないでくれー」と思いつつも、簡単には抜かせたくない! という意地みたいなものもあり、なんだかよくわからない感じで迎えた7周目。

インとアウトに分かれ、合流で砂盃さんが前に。「やっと抜かれたー」という安堵と同時に腰の痛みが限界を迎え、そこからは立って膝で衝撃を吸収する乗り方に変えました。この方が腰にはだいぶラクなんです。

しかし立った状態で600馬力の加速を受け止めるのは、正直ツラい。ハンドルマウントも低過ぎるので、そのしわ寄せが腕や他の部分にいきそう。別のところがおかしくなりそうでしたが、なんとか諦めずに走りきり、そのまま2位でゴールとなりました。

ゴールしたあとはしばらく腰が痛くて動けませんでしたが、マーシャルがレスキューに来てしまったので慌てて自分で歩けると伝えました。

「千里浜の海はやっぱりキレイだな~」

そう改めて気づいたのは、腰が痛くて仰向けで浮いていたこのときでした(笑)。

◇ ◇ ◇

HEAT 1はミスコースで0ポイントでしたが、自分以外も失格が多かったので、まともに走りきった2名以外は0ポイントか5ポイントしかもらえていません。HEAT 2と3は2位だったので、総合3位には入っているかも。

そう期待しながら(みんなに迷惑を掛けながら)後片付けをして、ヒーヒー言いながら表彰式まで歩いて行った結果、3位入賞していました。

そして今回も愛妻アケはA RUNABOUT SLTD ALLで優勝! AQUA SKI DIVISION GP1にSX-Rで参戦した桜井さんも、KOMMANDER(コマンダー)勢に割って入り2位表彰台となりました。さすがですね。

今回はチームメンバーやサポートしていただいたみなさま、近くのテントで手を貸してくださったみなさまのおかげで、なんとかレースをすることができました。いつも以上にみなさんの力をお借りしたレースとなってしまいました。本当にありがとうございました。

そして応援していただいたスポンサーさま、読者のみなさま、ありがとうございました。

ここまでひどい腰痛でのレースははじめての経験でしたが、少しでも早く万全の状態でレースに出られるよう、治療に専念していきたいと思います。

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#86 生駒 淳

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