2021年10月よりカワサキモータースジャパンの社長に就任した桐野英子氏のインタビュー後編は、「ジェットスキーの未来予想図」について。
今後の生産体制やニューモデルの投入ペース、さらには電動化や水素燃料の採用といったカーボンニュートラルへの対応など、カワサキの「現在」と「未来」についてお話しを伺いました。
ニューモデルの投入ペースはアップする?
現在は世界中でアウトドア需要が高まっていますが、ジェットスキーにもその影響はありますか?
おかげさまで売れていますね。
生産体制を強化して増産するご予定はありますか?
はい。増産はする予定なんですけれども、なにせ部品の調達の問題と、物流の混乱があります。当社の場合は米国の中央部(ネブラスカ州)で作っていまして、海沿いまで陸送するためのコンテナ入手の問題もあります。あとは港湾でのハンドリングも通常より時間がかかっているため、そもそものリードタイムから考えると2 倍も3 倍もかかっているのが現状です。
海外への出荷に時間がかかる要因ですね。
もともと部品の入手が困難なうえに、できあがってからも時間がかかるということで、頑張ってはいますけれども、なかなか難しい状況が続いていますね。
そういった状況でも、今後はジェットスキーにも力を入れていく予定と伺いました。
そうですね、ジェットスキーはヤメませんよ(笑)。ニューモデルも出します。
ニューモデルの投入ペースはこれまでと変化ありそうですか?
急激には変化しませんけれども、ただ「ちゃんとやっていきますよ」ということで開発の体制を整えたりはしていますので、これからはコンスタントにニューモデルが出していけると思います。
ジェットスキーの未来は電動? 水素?
二輪では「電動化」について具体的な発表がされていますね。
カーボンニュートラルに対する基礎的な研究というのは当社でもかなり前からやっていますし、川崎重工業の方にも技術研究所があります。水素も含めて長いあいだ研究しているので、電動バイクも出そうと思ったらいつでも出せるんです。
それでも出さないのには理由があるのでしょうか。
本当にそれが必要ですか? というのと、お客さんにとってメリットがあるかどうか。そのあたりが地域、国、あとはプロダクトによっておそらくバラバラだと思うんですよね。日本の場合は電気代が安いわけでもないし、その電気を作るのにものすごいコストをかけて、しかもカーボンだしまくりなんですよね。そういう状況もあるんですけど、お客さんのメリットがあるなら、やろうと思ったらできるような準備はしてあります。
出す「意味」があるならば、ということですね。
あとはおそらく他メーカーさんも研究や検証をされていると思うんですけれども、電動で、完全な電気のみで大型のオートバイを動かすのはかなり無理があるんです。これは四輪も同じですけど、電気を出力に使ってしまったら航続距離はどんどん短くなる。だから遅いスピードなら何百キロ走れますって言うんですけどね。
出力か距離か、選択しなければいけないと。
かといってオートバイの場合、すごい大きな重たいバッテリーを積むわけにもいきません。そうするとあるレベル以上のパフォーマンスが求められるオートバイについては、完全な電動化は難しいんじゃないかなと。やったところでコストもどんどん上がって、あまりメリットがないような状況になるのではと思います。そのなかで、内燃機関を残すひとつの手段としては水素。水素を燃料として使うというのは選択肢として考えてもいいよねということで、それには取り組んでます。
ジェットスキーの電動化についてはいかがでしょうか?
今のところジェットスキーに関しては、何年ごろにカーボンニュートラル対応の、たとえば電動ジェットスキーを出しますよとか、水素で動くジェットスキーを出しますよというのはまだ一切決めていません。「水(の上)で電気?」というイメージから来る拒絶反応もありますし、電気にすることでどれだけメリットが出せるのかと。まずどこで充電しましょうか? インフラもないですよね。全部プラグインにしてバッテリーを外して家の中で充電しても、そのレベルの電気だったら3 分ぐらいしか走れないんちゃいますか? というのが現実問題としてあるんですよね。
今のパフォーマンスを犠牲にしてまで電動化する必要性は、今のところはないという判断ですね。
ジェットスキーに関してはそこまでの必要性はまだ無いだろうという判断をしています。世の中が変わって、たとえばインフラがすごく整備されて、世の中のもの何もかもが全部電気になりましたと。電気代も下がったねとなったときには、あり得るかもしれないですけどね。そうなったときの準備はしています。