水上バイクに「慣らし運転」は必要?
新品のシリンダやピストンなどの摺動部(しゅうどうぶ)に馴染みを付け、表面を滑らかにするためにおこなう慣らし運転。
近年では部品の精度や信頼性の向上に従い「必要ない」という自動車メーカーも増えていますが、水上バイクはどうなのでしょう?
結論から言ってしまうと、必要あり。
「部品の精度はクルマと同じで上がっていますが、高回転で水上を走る水上バイクは今でも慣らし運転が必要だと思います」とエムジーマリーンの鈴木インストラクターが言うように、変速機がなく高回転域を多用する水上バイクの場合、部品が新品の状態でいきなり出力を上げると、部品同士が擦れて傷付くこともあります。
それが影響して本来の性能をフルに発揮できなくなったり、ゆくゆくは不具合に繋がる可能性もあるため、水上バイクには慣らし運転が必要不可欠といえるでしょう。
メーカーによって推奨する回転数や必要な時間が異なるので、取扱説明書の記載に従って正しい手順と方法でおこなってください。
また部品の馴染みをつける機械的な意味の他に、人間が新しい水上バイクに「慣れる」ためにも慣らし運転は必要です。
販売店によっては代行を請け負っているところもありますが、自分でおこなうメリットもあることを覚えておきましょう。
慣らし運転中に各部の初期不良を察知できる可能性もありますからね。また新艇の状態を覚えておくことで、不具合が発生した際に「何かがおかしい」と迅速に気づくことも可能になります。
慣らし運転の際に「正常な状態」をしっかりインプットしておきましょう。
各メーカー推奨方法(一例)
BRP
10時間の慣らし運転が終了するまでは、ウォータークラフトをフルスロットルで連続航行しないでください。
この期間中は、最大スロットルを1/2~3/4以上に開けないようにしてください。
ただし、短時間の全力加速やスピードの変化は適切な慣らしに役立ちます。
慣らし期間中に、スロットルを全開にして航行を続けたり、長時間の巡航は有害です。
※2022 GTX、RXT、WAKE PROシリーズオペレーターズガイドより抜粋
ヤマハ
エンジン構成部品等の摺動部を均一に摺り合わせるために、慣らし運転が必要です。
慣らし運転を行うことにより、安定した性能が得られるとともに各部品の寿命も延びます。
慣らし運転を行うときは:(1)エンジンオイル量を点検します。(2)マリンジェットを進
水し、エンジンを始動します。(3)最初に2000r/minで5分間航行します。(4)次に5000r/min以下で90分間航行します。
慣らし運転完了後、通常の航行が行えます。
※2021 MJ-FX Cruiser SVHO取扱説明書より抜粋
カワサキ
新しいウォータークラフトは、ならし運転が大切です。これは、機械部品の各摺動部になじみをつけ、表面を滑らかにするためです。
ならし運転中はエンジンの回転速度を、次に指定する回転速度以上に上げないように航走してください。
最初の5分間:2500rpm以下 次の1時間:4000rpm以下 次の30分間:6000rpm以下。
ならし運転期間中、ウォータークラフトを注意深く取り扱うと、より効率よく、信頼性の高い性能が確保でき、長持ちにつながります。
※2021 JET SKI ULTRA 310LX取扱説明書より抜粋
慣らし運転のワンポイントアドバイス
ヤマハとカワサキの取扱説明書には、慣らし運転時のエンジン回転数の推奨値が「○○回転以下」と記載されています。
これはを守るのは大前提ですが、ここで鈴木さんからワンポイントアドバイス。「低回転から推奨回転までまんべんなく使って走った方が、各回転域で摺動部のあたりがとれますよ」。
取扱説明書に記載の回転数で固定するのではなく、スロットルを開け閉めしながら走るのが慣らし運転の理想的な方法のようです。
ただし回転数を上下する際、急な操作はエンジンに負荷がかかるので禁物。
じんわり上げて、じんわり下げるのが理想で、「イメージとしてはヒッ・ヒッ・フーです(笑)」というその方法は、下記の動画で確認してみてください。
ちなみに「退屈しのぎにタンデムで」という気持ちもわかりますが、エンジンへの負荷を考えると1人乗りが吉。またトレーラーに載せた状態や桟橋に係留した状態でインテーク部分だけを水に浸け、スロットルレバーを固定して慣らし運転をおこなう方法もありますが、一定の回転数のみ使うことになるので各回転域のあたりがとれません。
目を離している隙にゴミを吸うことも考えられるので、実際に水上を走るのがベストといえるでしょう。
慣らし&暖機運転を動画で解説!!
水上バイクに「暖機運転」は必要?
慣らし運転と同じく、暖機運転も水上バイクには必要です。
エンジン始動後すぐはオイルが冷えて固まっていることから、潤滑経路の末端までオイルが巡っていません。また長期間乗っていなかった場合はオイルが下まで降りていたり、油膜が薄くなっている可能性もあります。
その状態でいきなり全開にすれば、エンジン内部の金属部品にダメージを与えるのは明白でしょう。
「4~5分アイドリングの状態にしていればエンジンは暖まると思います。マリーナの場合は桟橋付近を徐行で出航すれば暖機運転にもなりますね」とのこと。
暑い夏より寒い冬、NAモデルより過給器にもオイルが必要なSCモデルの方が暖機運転の時間も長く必要なことも覚えておきましょう。
撮影協力|エムジーマリーン