生駒 淳 Jun Ikoma
国内だけにとどまらず、世界中のレースに積極的に参戦する日本有数のトップライダー。2011年よりJJSFに参戦し、国内では2015年と2017年にはPRO RUNABOUTでシリーズチャンピオンに。海外では2012年にKINGS CUPで2クラス制覇、2018年にタイのJET SKI PRO TOURでシリーズチャンピオン、2019年にフィリピンのNATIONAL JET SKI RACEでシリーズチャンピオン、2019年のIJSBA WORLD FINALSで世界2位と、輝かしい成績を残す。
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2021年4月2日（金）【出国】
久々の海外レースへ
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、2020年は一度も海外のレースに参戦できませんでした。オフシーズンにトレーニングで滞在していたフィリピンにも行けず、悶々とした日々を過ごしていたわけですが、長らく延期されていた「JET SKI WORLD CUP 2020-2021（ジェットスキーワールドカップ）」の開催が決定。自分としては2019年末以来の海外レースです。
チームジャパンとしては自分の他に砂盃 肇さん、海辺満幸さん、片野丈一郎くんが参戦することに。チーム関係者を含む10名（海辺さんは前日に関空から出発）が、出発日の4月2日に晴れて成田空港から出国できることになったわけですが、ご存じのとおり現在はコロナ禍であり、海外へ行くのもひと筋縄ではいきません。
まずは空港でのチェックインですが、ここで10種類の書類が必要になります。平時は必要ない書類を山ほど用意するわけですが、この10種類の書類を集めるために、さらにそれぞれ数種類の書類が必要となります。
たとえばタイへの入国許可証（COE）もそのひとつなんですが、これに登録するにはビザが必要になります。そのビザを発行してもらうには、レース主催者のTJSBAからインビテーション（招待状）が必要。それをもらうには、日本のJJSFからTJSBAに推薦状を送ってもらう必要がある――、というように、ひとつの書類をもらうだけでとてつもない時間と労力を要しました。
もう無理だ……と何度も思いましたが、片野宣之さん（丈一郎くんのお父さん）に助けていただいたので、なんとか出発の2日前にすべての書類が揃いました。他のメンバーも含めて、片野さんがいなかったら期限までに書類を集めることはできなかったと思います。感謝しかありません。
そしてタイへの出発に向けて最後の壁といえるのが、72時間前以内のPCR検査です。これが陽性なら、もちろんタイへは行けません。自分は4月2日出発だったので、3月31日に検査を受けて、4月1日に結果がわかります。
ここまで苦労してきたのに、これで陽性ならすべて終わり。祈るような気持ちで数日を過ごしましたが、結果は陰性。自分以外のメンバーも全員が陰性だったようで、無事タイへ行けることになりました。
◇ ◇ ◇
空港のチェックインは、書類が多い以外はいつもとさほど変わらず。必要書類がすべて揃っているかチェックするぐらいでした。成田空港はひともまばらだったこともあり、いつもよりスムーズなぐらい。
出国審査もガラガラで、免税店もほとんど閉まっていました。BVLGARIはやってましたけどね（笑）。機内もガラガラで相当なソーシャルディスタンスだし、そもそも乗るひとが少ないから飛行機も小さかったです。
そして約7時間後に、タイのスワナプーム空港に到着。防護服で完全防備しているスタッフを横目に空港内を歩いていると、通路の両脇にものすごい数のイスが並べられていることに気づきました。
混雑しているときは、ここに座って3時間は待たされるとか。自分たちは23時20分着という深夜便だったのと、同じ便に40人程度しか乗っていなかったので待つことはありませんでしたが。
宿泊（隔離）予定のホテル名が書かれた札を持って、まずは必要書類を隅から隅までチェックされ、体温を測ってからいざ入国審査へ。なぜ水上バイクのレースに来たのに、行き先がゴルフ場なんだ？ としつこく聞かれたぐらいで（その理由はのちほど）、大きなトラブルもなく到着から約1時間でタイに入国できました。空港の出口には「FREE」と書かれた水が大量に置いてあったんだけど、あれはなんだったんだろう？
◇ ◇ ◇
さて、今回チームジャパンのメンバーは、レース会場のあるパタヤのホテルで10日間の隔離生活ですが（直前で14日から短縮されました）、自分と愛妻アケ、それとチームオーナーの秋本さんの3人は、タイ西部のカンチャナブリという場所にあるゴルフ場へ。
けして遊びたかったわけではなく、10日間もホテルで缶詰だとレースのための体力を維持できるのか心配だったから。探してみたらゴルフコースを毎日回れるし、大好きなビールも飲めそうな場所を見つけたので、それならとゴルフ場での隔離を選びました。けして遊びたかったわけではありません。
夫婦なら英語の戸籍謄本を提出すれば同室で宿泊できるし、ゴルフも一緒にラウンドできます。それがないと1人部屋で、ラウンドも1人だとか。1人じゃつまらないですから、この心遣いはありがたかったですね。あ、けして遊びに来たわけではありませんのであしからず。
空港を出ると送迎のハイエースが来ていて、そこからカンチャナブリまでは約2時間の道のりです。運転席と自分たちのあいだにはしっかりしたアクリル板が貼ってあり、空気すら通さないようにコーキングまでしてありました。徹底していますね。
ゴルフ場に着くと防護服を着たスタッフに案内され、広々としたホールへ。そこにはイスとテーブルが並べられ、席に着くとその先の2階からマイク越しに声をかけられます。そこで検温したあと、ゴルフ場のカートで部屋まで案内されました。
部屋は開放的なコンドミニアムタイプで、お隣さんもいるし、「隔離されてる」という閉鎖的な気持ちになることもなさそう。部屋でスーツケースを開けようとしたら、消毒液でビショビショだったのには苦笑いでしたが（笑）。荷物を広げて整理しただけで夜中の4時になってしまったので、この日はそのまま就寝となりました。
2021年4月3日（土）【隔離1日目】
10日間の隔離生活がスタート
朝10時ごろに起床して、まずは腹ごしらえです。食事は毎食部屋まで持ってきてくれるのですが、今日の朝食は8時ごろから家のベランダに置いてあったみたい。現在のカンチャブリは最低25度、最高35度の猛暑です。2時間は炎天下のなか放置されていたことになりますけど、大丈夫かな……？
なかを確認した感じは大丈夫そうだったので、恐る恐るいただくことに。この日のメニューはご飯と野菜スープ、卵焼きのなかに餡が入ったやつと野菜が2種類で、ボリュームは文句なし。味は……、まあまあですかね（笑）。
朝食後は「COSTE」というアプリをダウンロード。毎日9時と15時に検温して、このアプリで報告するようです。日本語にも対応していて、最初にユーザー情報として名前や性別、パスポート番号、年齢、身長、体重などを入力するのですが、これはいったい誰に、何のためにやらされているのかちょっと疑問。国なの？ ホテルなの？ 釈然としませんが、拒否することもできないので個人情報を粛々と入力していきました。
この日から3日間は部屋から出ることも許されませんが、3日後のPCR検査で陰性なら、4日目からは晴れてゴルフができます。そのときを心待ちにしつつ、今は何もやることがないので日本から持ってきた筋トレグッズでひたすら体をいじめていきます。
12時になると昼食が届いたのですが、朝食同様、ものすごいボリュームです。足りないよりはいいし、温かいものを運んでくれるのでとてもありがたいのですが、ちょっと多すぎる……。
そんな山盛りのお昼ご飯からいったん目をそらして外を見渡してみると、どうやらここは自然のなかにあるロッジのような感じで、雰囲気はなかなか。監視されているわけでもないので、出歩いてもバレないかも（笑）。テラスのような場所まであり、気分転換に部屋の外で食事してみたけど、あまりの暑さにすぐヤメました（笑）。
昼食後は筋トレ再開。山盛りの食事分のカロリーを消費するだけでひと苦労です。そしてひと通り筋トレを終えると、気づけば夕方に。いよいよやることが無くなったので、Netflixで韓流ドラマ「愛の不時着」を観ることに。1話が長いので、暇つぶしには最高です。
夕食もそのままドラマを観ながら食べましたが、今日はビールを手に入れたのでご満悦。おつまみ片手に晩酌しながら、夕食後もひたすらドラマを観て夜をやり過ごしました。
2021年4月4日（日）【隔離2日目】
文明の利器で快適な隔離生活
今日は朝8時に起床して、まずは朝食から。毎日3食、規則正しく食べられるので健康にはなりそうですが、前日に筋トレし過ぎて今日は筋肉痛です。そんな時は無理せず、ストレッチを多めに取り入れながら使っていない筋肉を鍛えていきます。
そういえばホテル側からLINEでやり取りがしたいと言われたのですが、「要望があれば何でもLINEで伝えてください」と。お言葉に甘えてさっそく食事の時間を9時、13時、19時に変更してもらい、さらにビールや炭酸をオーダーしてみたら、快く了承してくれました。
朝食後は韓流ドラマの続きを観て、昼食後はまた筋トレ。それが終わったらまた韓流ドラマ。テレビは3チャンネルしかないので……。Netflixといい、LINEといい、この隔離生活がひと昔前ならもっと不便で退屈だったでしょうね。ありがとうNetflix！ ありがとうLINE！
2021年4月5日（月）【隔離3日目】
待ちに待ったPCR検査
今日は8時45分からPCR検査です。これにパスすれば、明日から待ちに待ったゴルフができる！ 当然ですが陽性なら即入院です。まさに天国か地獄。苦労して書類を揃え、遠路はるばるタイまで来て、数日の隔離生活を過ごしてもなお、スタートラインに立てるかどうかもわからない状態なんて（泣）。
PCR検査はプールでやるからと言われたのですが、自分たちはずっと部屋にいたので場所も行き方もわかりません。LINEでプールの場所がわからないことを伝えると、スタッフが迎えに来てくれました。ありがとうLINE！
ゴルフ場のカートに乗ってプールまで案内してもらい、いざ検査です。日本では鼻から長い綿棒みたいなものを入れられ、ものすごく痛かったのですが、それを他のみんなに伝えたら「唾液で検査できたよ」と。そっちが良かったなあとこぼしていたら、タイの検査は唾液だから大丈夫だと。そんな言葉を頭のなかで繰り返しながら、今、自分は長い綿棒と向き合っています……。なんで？
逃げるわけにもいかないので、覚悟を決めてやってもらいましたが、やっぱり痛かったです。それから唾液も採取されて、なぜか右手の薬指に針を指されて採血もされました。なんのためかわかりませんが、これも痛かった。散々な目にあってグッタリしながら部屋に戻り、朝食を食べてから今日も韓流ドラマと筋トレの無限ループです。
夕方には「愛の不時着」を観終わり、最後にもう一度筋トレしてからシャワーを浴びて、サッパリしてから晩酌です。ビールはたくさん持ってきてもらったので、普段よりも呑み過ぎてしまいそう（笑）。晩酌のお供は、韓流ドラマ「梨泰院クラス」。このままだと隔離生活を終えるころには、ムッキムキで韓国語も若干理解できるオジさんが出来あがりそうです（笑）。
#1 POUND ONE
#86 生駒 淳