唯一の国内製造モデル
みなさんはウェーブランナーがどこで作られているか、知っていますか?
実はそのほとんどが、アメリカで作られています。
エンジンはクオリティを高めるために国内の工場で作られていますが、船体やその他の部品はアメリカで製造し、組み上げています。
意外と知らないひとも多いのではないでしょうか。
そんななか、ウェーブランナーだけでなくすべての水上バイクで唯一『メイド・イン・ジャパン』で製造されているのがSuperJetです。
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※前後編の前編です
ヤマハ初の4ストロークスタンドアップとして2021年にデビューしたSuperJetですが、2ストローク時代の製造環境は一掃し、まったく新しい工場を起ち上げて国内で製造をスタート。
船体の工法に従来のSMCやハンドレイアップではなく『VARTM』が採用されていることもあり、ガラス裁断機やゲルコートを塗布する機械など、他のウェーブランナーやボートでそれまで使用していなかった機械が導入されています。
ちなみにこのVARTMという工法は、大型の一体成形が容易であることや、金型ではなくFRPの型を使用するといった特徴がありますが、SuperJetの製造にはさらに進化した高効率のVARTM工法を採用。
型に温水を流すことで硬化を促進して時間を短縮し、さらに成形条件を均一化することで外気温に左右されず品質を一定に保っています。
SuperJet製造工程
01.型準備
まずは型をキレイに拭きあげます。
外側の型にホコリや異物が付着しているとそれが表面のヘコみになってしまうので、丁寧な作業が必要になります。
拭きあげたあとは型を外れやすくするための離型剤を塗り、ゲルコート塗布に備えてマスキングもおこないます。
ハルの上型には、完成後に強度が必要な部分(エンジンマウント取り付け部など)にウレタン成型パーツをセットしておきます。
02.ゲルコート塗装
ハルとデッキの下型にゲルコートを塗布します。
塗りムラが無く厚みを揃える必要があり、一定量の塗料を使用することでおおよその目安にしていますが、職人の技術がもっとも問われる工程といえるでしょう。
まずは全体に白色の塗料を吹き、マスキング用の治具を外して黒色部分を塗布していきます。終了後は硬化室にてゲルコートが固まるのを待ちます。
03.ガラスセット
硬化したゲルコートの上に、事前に裁断したガラスシートをセットしていきます。
ガラス裁断機はジーンズのような厚手のものも裁断できる機械で、1枚のシートからパズルのように隙間無く切り出すことでロスを減らしています。
04.カップリング・樹脂注入・離型
下型と上型を重ね合わせ、隙間の空気を吸い出して内部を真空にしてから樹脂を注入。ガラスシートに液状の樹脂を含浸させるイメージです。
一定量を注入したら硬化を待つわけですが、この時も型には温水が流れていて、硬化の促進と条件の均一化が図られています。
硬化が完了したら型から外して完成。この段階でヘコみやキズ、強度不足が無いか確認します。
05.トリミング・穴あけ
エンジンルームの開口部や不要な部分をカットします。
SuperJetのエンジンルームはフチが丸みを帯びて(断面が下を向いて)いるのですが、一体成形でこの仕様が可能なのは手作業のなせる業だとか。
ドライブシャフトや排気口などの穴をあけて、ハルとデッキは完成。
軽微なキズやヘコみがあれば修正して、ポンプの周りの開口部は変形しないように器具を使って固定しておきます。
06.デッキ&ハル 前艤装
デッキやハルに各種パーツを取り付けていきます。
ノーズの黒ゲルコートのフチは、デカールを張ってキレイな直線に仕上げているのはオドロキでした。意外と気付かないので、機会があれば間近で見てみてください。
ジェットポンプはSuperJetに使用されている部品のなかでも数少ない国外製造のパーツで、ヤマハ台湾工場で作られています。
ハルの上下をクルッと回せる台座は、この工場のオリジナルです。
07.エンジン搭載&デッキ接着
クレーンでつり上げてエンジンを搭載していきます。
SuperJet(TR-1エンジン)を含むすべてのエンジンが国内製造ですが、その製造工程は企業秘密が多すぎて見せられないとか……、残念。
ハルのフチに接着剤を塗布し、デッキと重ね合わせたら挟み込む力加減が最適になるよう調整されオリジナルの器具で固定。はみ出た接着剤は完全硬化する前にカットします。
08.後艤装&ハンドル
ガンネルとハンドルポールを取り付けて、ハンドル周りのケーブル類もセットアップします。
チンパッドは梱包時に干渉するため、ここでは取り付けずテザーコードや取扱説明書と一緒に同梱品として箱詰めされて送られます。
ちなみに欧州版の取扱説明書はフランス語やドイツ語といった各種言語が1冊にまとめられているので、日本語版よりかなり分厚くなっています。
09.グラフィック
2回目の外観検査をおこなってから、船体にデカールとデッキマットを貼っていきます。
エンジンハッチは別の国内工場で製造されていますが、デカールは船体と同時にここで貼ります。
ちなみに世界各国に送り出されるSuperJetの仕様はすべて共通ですが、唯一異なるのがステッカー類。警告ステッカーと排ガス規制クリアを意味するステッカーは、各国に対応するものが貼られています。
10.完成検査&梱包
大きな水槽にSuperJetを浮かべて、水漏れやエンジンが正常に始動するかを確認します。
ガソリンは燃料タンクに入れるのではなく、エンジンに直接供給。排気は専用のダクトを通って外部へ排出される仕組みになっています。
水槽での検査をパスしたら、最後にもう一度外観をチェックしてようやく完成。鉄枠で梱包され、ここから世界中の水辺へと旅立っていきます。
メイド・イン・ジャパンの品質
SuperJetの製造工程についてはご覧の通りですが、驚いたのはそのほとんどが人の手によって作られていること。
理由は色々あるようですが、随所に品質へのこだわりが感じられる製造現場でした。
ここを見た海外のヤマハスタッフが「クレイジーだ」と驚いていたそうですが、これぞ日本の物作りといったところでしょう。
海外で同じことを実現するのは、不可能に近いそうです。
ちなみに「世界のなかでも日本のお客様の目は厳しい」というのも、繊細で高品質なモノを生み出す要因となっているのかもしれませんね。
そして日本企業であるヤマハが、ジャパンクオリティで作り出すSuperJetは、他のどのモデルよりも『メイド・イン・ジャパン』を感じられる高品質な水上バイクといっても過言ではありません。
性能はもちろん、こだわり抜かれたその品質もぜひ体感してみてください。