【インタビュー】PWC(水上バイク)×FAMILY|佐藤保宏・進之助

親子で同じ趣味を持つことに、憧れを抱くひとは少なくありません。

コミュニケーションのきっかけになったり、子どもが大きくなっても一緒の時間を過ごせたり、趣味が潤滑油となって関係が上手くいくこともきっとあるでしょう。

近年は水上バイクでも、子どもが免許を取得して親と一緒に楽しむケースが増えています。

ここでは水上バイクが繋ぐ様々な親子の物語を、少しだけ紐解いていきましょう。


水上バイクレースが繋ぐ親子の絆

インタビューに応えてくれた佐藤保宏さん・進之助くん親子。

HWSM 保宏さんは、いつから水上バイクに乗っていますか?

保宏(父) 16歳、高校1年生の時からです。もう30年近くになります。あっという間でしたけどね。

HWSM どのようなきっかけでしたか?

保宏(父) 当時ガソリンスタンドでバイトしてたんですけど、そこの向かいで働いていたひとが、ある日水上バイクを引っ張ってきて。

そのひととは以前から仲が良くて、元々ノリモノに興味があったので「コレ前から乗ってみたいと思ってたんですよ」という話しをしたら「じゃあ乗りに来なよ」と誘ってくれて。それで乗せてもらって、すごく感動したのがきっかけですね。

HWSM 元々ご家族の誰かが水上バイクに乗っていたとかは?

保宏(父) まったく無かったです。それが偶然誘っていただいて、一気にハマってしまって。すぐに免許を取りにいって、高校生のころから淀川でそのひとたちに乗せてもらっていました。

HWSM その後、全日本選手権のレースにも出場されていましたね。

保宏(父) 19歳から準備して、20歳でライセンスを取ってスタートした感じでした。

HWSM なぜレースに?

保宏(父) 誘ってくれたひとたちがレース関係の方と知り合いで、僕もその当時はレースに興味があって。「そんなに好きなら出てみたら」とお話しをいただいたので、そういう繋がりもあってレースに出る流れになりました。

HWSM レースに出ていたのはどれぐらいの期間ですか?

保宏(父) 国内では5~6年ですね。あとは海外のレースに数年出ていました。国内の最後の方でたまたま全日本チャンピオンになれて、そのタイミングでタイのプーケットで開催されたレースから招待してもらったんです。

そのとき成績の良かった日本人に声を掛けていたみたいで、せっかくの機会だからと出てみたのをきっかけに、それ以降は海外レースのみに出場していました。国内外合わせても10年やってない感じですね。

HWSM アメリカのワールドファイナル(世界大会)やタイのキングスカップ(現在のワールドカップ)にも精力的に出場されていましたが、そういったレースに進之助くんを連れて行ったことはありましたか?

保宏(父) 実は海外のレースもそろそろ終わりかなと自分のなかで思っていた時期に、息子がポコッとできまして(笑)。それもあってレースからはいったん引き上げました。たしか2009年のキングスカップが最後だったと思います。

現役時代はスポーツクラスに参戦していた保宏さん。「スタンドアップの技量は息子に追い抜かれました」

HWSM では進之助くんはレース会場に行ったことがない?

保宏(父) 行ったことも見たこともありません。僕が走っている姿も知らないですね。

HWSM では進之助くんの記憶にある、水上バイクとの最初の出会いは覚えていますか?

進之助(子) んー、たぶん小学校1年生、7歳ぐらいです。それぐらいから淀川に行く機会が増えて、そこで3人乗りとか乗せてもらって楽しいなと思って。

保宏(父) 淀川ゲレンデは管理のもと期間限定で水上バイクに乗れるんですけど、うちの店(水上バイクショップ「フォース」)もその管理に関わっているので、シーズン中は店と川を行ったり来たりするんです。

そのときに一緒に付いてきたり、手伝ってくれたりしていたので、行く機会が増えていました。

HWSM 後ろに乗せてもらったときに、進之助くんは自分でも操船してみたいと思いましたか?

進之助(子) 最初のころは思ってなかったんですけど、小学校の高学年になるぐらいのころからだんだん思うようになりました。

HWSM 保宏さんは、お子さんと一緒に水上バイクに乗りたいとは思っていましたか?

保宏(父) あまり意識はしていなかったんですけど、物心つくぐらいのころから水上バイクに限らずノリモノが何でも好きだったので、「乗るなと言うたところで乗るやろな」とは思ってました。水上バイクにも自然に興味は持つだろうと。

将来の夢はボートレーサー!?
13歳で海外レースに挑戦した理由

2023年10月に出場したワールドファイナルでの1枚。2度目のレースとは思えないほどサマになっています(Photo/Jin Omura)。

HWSM その言葉どおり、進之助くんは13歳で海外の水上バイクレースに出場されました。日本では16歳になるのを待って免許を取得するのが一般的ですが、わざわざ海外まで行ってレースに出場したのは理由があったのでしょうか?

保宏(父) 将来的なプランの話しにもなるんですけど、「ボートレーサーという道もある」というのが元々のきっかけでした。

その道を目指すためには色々な方法があるぞ、というのを僕たち親子なりに考えて、今できることとして水上バイクレースのジュニアチャンピオンを獲っておこうと。

ボートレーサーになるための推薦枠があることは知っていたので、水上バイクのレースでチャンピオンになっておけばその選択肢を選べるかもしれない。

絶対にボートレーサーになる、というわけではないんですけど、ジュニアの時期は人生で一度きりですし、僕としてはどうせ息子は(水上バイクに)乗るだろうし、どうせレースもするだろうから、それなら1日でも早い方がいいなと。

それで本人とも話し合った結果、海外のレースに出ることを選びました。

HWSM 進之助くんが「どうせレースに出る」と思った理由を教えてください。

保宏(父) 4歳ぐらいからオフロードバイクに乗っていて、やっぱりノリモノに乗っているときが一番楽しそうだし、輝いているように見えたんです。

僕の経験的にも水上バイクとオフロードバイクはスロットルワークとかバランスの取り方とか共通する部分が多いと思っていて、息子も「もうちょっとココでスロットル開けた方がもっと曲がるんちゃう?」と感覚的な部分も身についてきているようだったので、これなら水上バイクも乗れるなと。

HWSM 進之助くんは今のところ、ボートレーサーになりたい気持ちはありますか?

進之助(子) めちゃくちゃあります。ボートレーサーは賞金が高いらしいですし、それで今の自分がやっている楽しい趣味とかもそのお金でできたりするので。

お金持ちになったら自分の土地とかもでっかいのを買って、家の前とかにバイクのコースとか、水上バイクに乗れる池とか、そういうのを作って楽しく暮らしたいなという夢があります。

HWSM 中学生とは思えないほど明確なビジョンですね。幼少期からそのように教えてきたからでしょうか?

保宏(父) 自分の好きなこと、やりたいことをやるためにはどうしたらいいかを、僕が実践して見せてきたつもりなので、その影響があるかもしれないですね。

あとは今の時代、YouTubeとかSNSでなんでも見られて情報も入手しやすいですし、話しで聞くより現実的な夢としてイメージしやすいのかもしれません。

HWSM その夢を叶えるための第一歩として、アメリカのジュニアレースに挑戦したわけですね。

保宏(父) はい。ジュニアクラスは13歳から15歳なので、ひとまず3年計画でのチャレンジです。そのあいだにレースだけでなくアメリカで色々な経験ができるのも、人生において大きなことだと思っています。

刺激を受けるような人との出会いもありますし、現地での生活から得られることもたくさんありますからね。

HWSM お父さんからアメリカで水上バイクのレースに出てみる? と言われたとき、進之助くんはどう思いましたか?

進之助(子) うーん、正直一瞬ビビるというか、ビックリしたというか。海外にはめっちゃ小さいころに家族旅行で行ったことがありましたけど、実際どんな雰囲気かもわからないし、行く前はちょっと怖かったっていう印象でした。

HWSM 海外のレースに出る、ということについては、保宏さんの経験が後押ししている部分もありそうですね。

保宏(父) そうですね。自分がはじめての海外レースに出たときは衝撃的な経験で、それをきっかけにスゴイ成長できたのもあったので、息子にも同じ体験をしてほしいというのはありました。

HWSM 13歳のお子さんが海外で水上バイクのレースに出る、ということに不安や葛藤はありませんでしたか?

保宏(父) ネガティブなことを準備の段階で1個ずつ潰していくんですけど、やっぱりすべては潰しきれなくて。レース中の事故やケガはもちろん心配ですし、あとは日々の食事や体調がすごく心配でした。

2人だけで勝手もわからない海外のレースに出たので、レースに関することはもちろん食事や洗濯なんかの日常生活も慣れない土地でやっていかないといけない。自分だけなら開き直れますけど、そうもいかないですから不安でいっぱいでした。

HWSM 2023年はアメリカのレースに2回挑戦しましたが、現地に行ってみていかがでしたか?

進之助(子) 思っていた以上に大変やったんですけど、会話することがめっちゃ楽しかったです。日本では英語を話すことがそんなに楽しいことじゃなかったんですけど、海外で英語で話すのは楽しかったです。海外の友だちができたのもうれしかったです。

HWSM 進之助くんは英語で会話できるのですか?

進之助(子) いや、あんまり……(笑)。ノリとジェスチャーでなんとかしてます。

進之助くんの相棒はYAMAHA SuperJet。今後は4ストロークSJ(写真手前)での参戦も検討中だそうです。

HWSM それも良い経験ですね。レースはどうでしたか? 5月にカリフォルニア州ハンティントンビーチで開催された「BEST OF THE WEST 2023」は、色々と大変だったようですが。

進之助(子) レースの2日前に本番と同じようなスポットで練習する機会があったんですけど、嵐で練習できなくなってしまって。急遽池みたいなところで一回だけ練習して、それがはじめての操船だったんですけど、やっぱり難しかったです。思っていたより。

レースに出た感想としては、はじめてのサーフレースやし、水上バイクに乗るのも2回目なのでだいぶ怖かったというか。ライバルと争うのもはじめてだし、緊張もあったし、思うように走れない悔しさもありました。

HWSM レースの途中で諦めそうになりませんでしか?

進之助(子) 練習走行で何回もコケたし、波にのまれたりして怖かったし、もういける気がせえへんくて。自分に「やれる」と言い聞かせたけど、やっぱり怖くていける気はしなかったです。

HWSM そんな状況でも結果的には完走できました。レース中に何か変化があったのでしょうか?

進之助(子) 練習走行が終わってから自分のレースまで時間があったので、他のクラスのレースを見てたんです。そうしたらみんなめっちゃ何もない感じで走っていて。

それを見て「これ自分このまま走らんかったらめっちゃダサいな」って言い聞かせて。ライバルとかも普通に走ってるし、これはいかなあかんなと。

それでいざスタートしたら、なんか練習走行より波を越えられるようになってたんで、これはいけるなと思って。そのままコケずに走り切れました。

HWSM 父親の目線ではどう見えましたか?

保宏(父) いや、もう最初は不安な気持ちしかなかったです。

行ったのは5月ですけど、その2か月前ぐらいから僕がネガティブなことばかり考えて、プレッシャーを感じて体調を崩したり。それにレースが僕も経験の無いウェーブレースだったので、練習走行を終えた時点ではダメかなと思いました。

これは乗り切れないというか、リタイアするだろうなと。ただ僕が先に諦めるのは良くないと思って、「いける」「大丈夫」と息子にも自分にも言い聞かせて。

それで実際にレースがはじまったら走るたびに良くなっていって、結果的には挑戦して良かったなと思いました。完走できただけでも最高だったというのが僕たちの結論です。

HWSM ぶっつけ本番で大波のなかを走りきるのはかなりの忍耐力や根性が必要だと思いますが、元々そういった素養がある子なのでしょうか?

保宏(父) 息子の根本に「レースが好き」というのがあって、それが大きいんだと思います。

オフロードバイクの方でも最初は全然ダメだったし、緊張しまくりだったんですけど、それをトレーニングで場数を踏ませて、緊張もなくす方法とか色々教えてきてたので、その経験が活きているのかなと思います。

HWSM 水上バイクのレースはどこが楽しいですか?

進之助(子) 向こうでできた友だちと一緒に乗ったりできたときとか、昨日よりも今日の方が上手く乗れたとか感じられたときは楽しいですね。

保宏(父) 今が伸び盛りというか、大人では絶対無理っていうような伸び率なので、今は楽しいと思います。

HWSM レースのどんなところが好きですか?

進之助(子) バイクでは1位になったこともあるんですけど、そのときの達成感というかうれしさがハンパなくて。スタート前の緊張感とかもワクワクするし、走っているときのエキサイティングなところとかも好きですね。

HWSM 逆に水上バイクがイヤになることはありませんか?

進之助(子) ……そんなには無いと思います。

HWSM たまにはあるということですね?(笑)

進之助(子) 思いっきりコケたりとか、5月のレースみたいに波にのまれて痛い思いとかしんどい思いをしたときは、もうヤメたいなと思うこともありました。

HWSM ちなみに日本では免許が無いので水上バイクに乗って練習できませんが、どのようにトレーニングしていますか?

進之助(子) お父さんの都合が合えばオフロードバイクに乗ってます。

保宏(父) 水上バイクのオフシーズンはほぼ毎週のように乗りに行って、地方レースやエンジョイレースに出場しています。

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