想像のはるか上をいく”全方位進化”
2017 年はスタンドアップのSX-R、2020 年はロングセラーのSTX シリーズがモデルチェンジされ、「次こそは……」と思っていたひともさぞ多かったことでしょう。
2007 年にULTRA 250X がリリースされてから15 年目となる2022 年、フラッグシップのULTRA 310LXが待望のモデルチェンジ。
アッパーデッキの見直しでデザインやライディングポジションが改良され、電動減速&リバースシステム「KSRD」をはじめとした新機能も満載。
その全貌を、元全日本チャンピオンの山田 保さんのインプレッションとともに見ていきましょう。
Impression Rider
山田 保 Tamotsu Yamada
1995年から1997年にJJSF A R/A 785クラスで3年連続シリーズチャンピオンに輝いた元トップライダー。ジェットスキーの開発に携わった過去を持ち、現在は兵庫県神戸市のジェットスキーARK「テクノプロ」代表も務める。
片手で操作が完結する電動リバースシステム
モデルチェンジしたULTRA 310LXを端的に表すなら、デザインも機能も“ イマドキ” になりました。
新開発の電動減速&リバースシステムが採用され、大型のフルカラー液晶も採用。広々としたリアデッキにはバッグなどのアクセサリーも取り付け可能で、使いやすいサイドストレージも新設。
最高出力は業界トップとなる310 馬力をすでに実現しているため、デザインの刷新と装備を拡充したことで「史上最高の3 人乗りジェットスキー」に進化したといえます。
なかでも電動減速&リバースシステム「KSRD(カワサキ・スマート・リバース・ウィズ・ディセレーション)」は、気になるひとも多い機能でしょう。
ジェットスキー初となる電動リバースの最大の特徴は、右手のみで減速や後進操作が完結していること。
「水上バイクでもっともリバースを多用する着岸時の操作性を高めるため、片手で前後進が切り替えられるようにしました」というとおり、唯一無二の操作性を実現しています。
山田さんが「一番気に入ったポイント」にこの機能をあげていることからも、完成度の高さがうかがえるでしょう。
なおリバースレバーは右手の親指で押し込むタイプで、後進時の出力調整もこのレバーでおこないます。
スロットルレバーとリバースレバーが一体になっていて、リバースレバーを押し込むとスロットルレバーも同じように動くのも特徴です。
また個人的にはシフトRに移行した際の出力の上がり方も好印象。
レバーを押し込んだままでも急激に回転数が上がらず、滑らかに上昇していくので安心して操作できました。
なおシフトRの状態ではエンジン回転数が3000rpmに制限されているようですが、リバースレバーを押し込んだ状態でトリムの上ボタンを押すと、最大4500rpmまで上げることが可能(リバースアシスト機能)。
トレーラーからの離脱時などに役に立ちそうですね。
ダイナミック・ラグジュアリーな外観
アクセントライト
このモデルには水上バイク史上初となる機能が数多く採用されていますが、そのひとつが青色のLEDアクセントライト。
かなりの存在感で、撮影時は曇り空だったこともあり遠くからでもハッキリと視認できました。
がらりと変更されたアッパーデッキのデザインや高級感溢れるメタリックシャドーゴールドのボディカラー、そして印象的なアクセントライトが相まって、デザインコンセプトである「ダイナミック・ラグジュアリー」を表現しています。
ちなみに電源ON時は、アクセントライトは常時点灯します。
リバーマークエンブレム
「カワサキの総合技術力の象徴」であるリバーマークエンブレムが、ジェットスキーではじめて採用されたのも注目すべき点でしょう。
二輪にも限られたモデルにしか与えられていないことから、このモデルがいかに特別かうかがい知れます。
後方の映像も表示可能なフルカラー液晶
7インチフルカラーTFT液晶
7インチフルカラーTFT液晶を採用したインストゥルメントパネルは3種類の表示パターンと2種類の背景(白or黒)から選択可能で、画面の明るさは周囲の光量に応じて自動で調光されます。
LCDボンディング技術の採用により、映り込みも少なく明るい屋外での視認性も抜群。
リヤビューカメラ
リヤビューカメラが後部座席の後方に内蔵され、液晶上に後方の映像を表示できるのも画期的な機能といえるでしょう。
カメラの後方視界は水平方向155°(±5°)、垂直方向115°(±5°)をカバー。
後方を振り返らず確認できるので、トーイングの際にも役に立ちそうです。
その他機能
パワーモードなどの設定も液晶上でおこないます(パワーモードの設定はハンドル左のボタンでも可能)。
設定した目的地の距離と方角を表示する「ウェイポイント機能」も搭載。
スマートフォンとBluetooth接続することで、オーディオだけでなく着信やメールをディスプレイに表示することも可能になりました。
革新的なサイドストレージ
イージーアクセスストレージ
両サイドのミラーの取り付け部分がガバッと横に開く、左右合計40Lのイージーアクセスストレージはツーリングユーザーにとって重宝する装備となるでしょう。
シートに座ったまま開け閉めが可能で、手前に入れたモノなら出し入れも座ったまま可能です。
また左右ともにダンパーが採用されているので、開け閉めもスムーズ。開いた状態がキープされるので、荷物の出し入れもラクラク。
右舷側にはスマホを入れられる防水コンパートメントが装備され、ケース内部には充電用のUSBソケットも配置されています。
フロントストレージ
124Lの大容量フロントストレージも装備。水上では収納物を取り出すのが難しいため、タオルなどの使用頻度が高いアイテムはサイドストレージに収納することをオススメします。
イージーアクセスリヤポケット
トーイングロープなどの濡れたモノを収納しやすい、イージーアクセスリヤポケットをシート後方に配置。
ポケットの下にはGoProのマウントなどが取り付けられるマルチマウントバーを装備しています。
技量や状況で選べる多彩な走行モード
パワーモード
従来はFPO(フルパワーオペレーション)とSLO(スマート・ラーニング・オペレーション)の2種類でしたが、新たにエンジン出力を約80%に制限するMPO(ミドルパワーオペレーション)と、約60%に制限するLPO(ローパワーオペレーション)が追加されました。
エンジン始動時はMPOになり、液晶かハンドル左のMODEボタンで他のモードへの切り替えが可能です。
ローンチコントロール
加速時に船体姿勢を自動で最適化してくれるローンチコントロールを新採用。
1度目の加速時だけ作動する「シングルモード」と、低速から加速するたびに作動する「リピートモード」の2種類から選択可能です。
エレクトリック・トリム・コントロール
従来の電動トリムは±8°の範囲から無段階でノズル位置を調整できましたが、あらかじめ用意された7ポジションから選べる仕様に変更されました。
ワンタッチ8km/hモード
ワンタッチ8km/hモードを起動すると液晶上に「5mph」と表示され、約8km/hの速度を維持。クルーズコントロールの上ボタンでエンジン回転数が上げられます。
4基のスピーカーを搭載したオーディオシステム
進化したジェットスキー専用オーディオシステム「JETSOUND 4s」は、定格60W×2(下段)と35W×2(上段)の合計4基のスピーカーを採用し、それを表す”4s”を名称にも追加。さらにクリアな音が楽しめるようになりました。
高級感のあるメーターバイザーはULTRA 310LX専用装備です。
スマートフォンなどのオーディオプレイヤーをBluetooth接続したら、オーディオの操作は液晶左にある専用ジョグダイヤルでおこないます(液晶操作用のダイヤルとは異なります)。
その他のトピックス
ULTRAデッキ
310LXと310LX-Sは、長さを200mm延長するULTRAデッキを装備。フラットな面が広くなったことで、ウェイクスポーツなどの準備もしやすくなりました。
またマルチレールを設置することで、バッグなどの専用アクセサリーが取り付け可能になっています。
マルチマウントバー
ハンドルの前方には2本のマルチマウントバーを新設。GoProのマウントや魚探・スマホホルダーなど、活用方法は無数にありそうです。
バンパーとデッキ形状
バウのバンパーが高くなり、さらに形状も工夫されたことでライダーへの飛沫を軽減。リアデッキを高くすることで、足元への浸水も軽減されています。
エンジンルーム
エンジンの基本的な性能に変更はないとのことですが、エンジンルームの開口部は全面カバーで覆われました。
燃料タンク
従来の78Lから80Lに変更され、航続可能距離がさらに伸びました。
船体の補強
アッパーデッキの変更にともない、船体に補強を入れて剛性を高めています。
ライポジの変更で走りも変化
事前のアナウンスで「ハルと足回りは従来どおり」と聞いていたこともあり、走行性能はそれほど変化ないだろうと思っていたのが正直なところ。同様の考えを持っているひとも少なくないでしょう。
ところがいざ乗ってみると、あまりの違いに驚かされました。
「まったく別のノリモノ」と山田さんが言うように、走りもこっそり進化していたのです。
「まずは乗った瞬間に、ライポジの変化をしっかり感じられましたね。すごく自然な姿勢でラクに乗れて、なおかつ曲がりやすい。前傾姿勢で腕を踏ん張らなくてもよくなったというか。
あとは波間で前が突っ込むような挙動も無くなっていたので、安心して握っていけました」
ライポジの変更により自然に、ラクに乗れるようになったようです。
さらに「軽さ」も感じられたと山田さんは言います。
国内ではまだスペックが発表されていませんが、US カワサキの情報によれば重量は従来よりも重くなっているはず。
それなのに「軽く感じた」というのは、いったいどういうことでしょう。
重いのに軽い、その理由は?
「ステアリングがすごく軽かったんですよね。電動リバースを開発するうえで、一緒に見直されたのかもしれません。それとエンジンの特性も変更されたのか、中低速が出ているように感じました。
加速感がすごく良くて、なおかつ加速もいきなりドンという感じではなく、スムーズにフラットに加速していくので乗りやすかったです」
ステアリングと加速感のおかげで、ハルが変わったり重量が軽くなったと錯覚するほどの変化を感じられたようです。
機能や装備の充実に目を奪われがちですが、新しいULTRA 310LXは走行性能も申し分なし。
「きっとみなさんの期待に応えられる」と山田さんも太鼓判を押すほどなので、機会があればぜひ試乗して、新しいULTRA のポテンシャルを体感してみてください。