カワサキ ジェットスキーのロング&ベストセラーモデルSTX-15Fの後継モデルとして、2020年にデビューしたSTX 160シリーズ。
シリーズを構成するSTX 160XとSTX 160LXの違いは、シート形状とオーディオの有無、そしてカラー&グラフィックス。エンジンとハルは、共通になっている。
そしてSTX160シリーズのハルには、あえて、STX-15Fと同じものが採用されている。
このあたりの経緯の詳しくは、HOT WATER Webマガジンで過去に紹介しているので、こちらをどうぞ。
継承と進化│2020カワサキジェットスキーSTX160シリーズ
STX 160シリーズの開発コンセプトは『エントリー・パワフル・スポーツ』というもの。このコンセプトをはじめて見たとき、STX-15Fのたどった数奇な運命を思い、むせび泣いた。
その理由を伝えるためにまずは、先代のSTX-15Fとはどんなモデルだったのかに触れてみたい。
水上バイクの4ストロークエンジン化がはじまったのは、2002年。4スト化に伴い、他社の船体サイズはひと回り大きくなったが、2003年に登場したカワサキ初の4ストエンジン搭載モデルSTX-12Fは、2スト時代のSTXハルを使用。同じサイズだった。
そして2004年に登場したSTX-15Fも、12Fと同じハル。別にこれはカワサキが頑固だからではなく、スポーツ性能が高く、操る楽しさが感じられるファンライディングモデルとするため、あえて、コンパクトなハルを選択したのだ。
この『操る楽しさ』というのは、カワサキの開発者に話をきくと必ず出てくるキーワードで、その言葉には「これなくしてカワサキ ジェットスキーにあらず!(ドンッ!)」と、テーブルを叩く音までセットで聞こえてくるような熱意が込められている。
そんな開発者の熱意と狙いはユーザーにも十分に届いており、「ULTRAもいいけど、やっぱり15Fが楽しいんだよなー」というファンは、いまも多い。あなたの回りにも、いませんか?
スポーツ性能が高く、操る楽しさが感じられるSTX-15Fだが、2007年にULTRAシリーズが登場すると、スポーツモデルとしての立ち位置を、変化させざるを得なくなる。
なにしろ相手の看板は『ウルトラスーパースポーツモデル』なのだから。ウルトラでスーパーなスポーツモデル。かないっこない。
それならば同じ土俵で競わず、スポーツはULTRA、STX-15Fは、申し訳ないけど来年からはスポーツアピールを少し引っ込めて、エントリーもカバーしてもらうということで、ひとつよろしく──。
赤提灯のカウンターで、決して目を合わせようとはしない上司に肩を叩かれながらそう告げられたSTX-15Fの無念さ、いかばかりだろうか(すべて妄想です)。
幸か不幸か、その扱いやすいサイズやクセのない素直な乗り味もあり、エントリーモデルとしても優秀だったSTX-15F。いつしか、「STX=スポーツ」のイメージを持つひとは少数派になり、多くの人々の記憶にはカワサキ ジェットスキーのエントリーモデルとして刻まれ続け、2019年でその歴史に幕を下ろすことになった。
なにが言いたいのかというと、STX-15Fを生粋のエントリーモデルだと思っているひとに、それは世を忍ぶ仮の姿で、実はド真ん中スポーツモデルなんだよと、声を大にして伝えたいのだ。
それを踏まえて、冒頭のSTX 160シリーズの開発コンセプト『エントリー・パワフル・スポーツ』を見直してみると、古参STXファンの胸には、グッと迫るものがないだろうか。そう、そうなんだよ!STXはスポーツなんだよ、コンチクショーと。
「スポーツ」の文字が輝かしく躍り、それを「パワフル」という形容動詞が飾る。一度は薄らいでしまった、「STX=スポーツ」という主張を堂々と掲げ、そして「エントリー」はスポーツ一辺倒ではなく、その扱いやすさから、幅広いライダー層にマッチするフトコロの深いモデルであることを表す。
この開発コンセプトはそのまま、STX-15Fがナニモノであったのかを表すものでもあるのだ。
STX-15Fの後継モデルにこのような開発コンセプトが与えられたことが、素直にうれしい。そしてSTX 160シリーズに乗る人が、ほんのわずかな瞬間でも、そのなかに受け継がれた先代の香りを嗅ぎとり、思いを馳せてくれれば……。
なんて変なことをみんなは考えず、素直に楽しめばいいからね!
STX-15Fとのサイズ比較
STX-15F | STX 160X | |
全長 | 3120mm | 3153mm |
全幅 | 1180mm | 1181mm |
全高 | 1050mm | 1156mm |
STX-15Fと比較してSTX 160Xの全長は+33mm、全幅は+1mmとなっており、その差は微々たるもの。大きく違うのは全高で、+106mmとなっている。
STX-15FとSTX 160LXを重ねた画像を見ればわかるように、着座位置、ハンドルポジションともにSTX 160の方が、高くなっている。
これはライディングポジションの変更を狙ったもので、目線が高くなり、よりラクな姿勢で乗れるようになり、操縦性も向上している。
STX-15Fとの整備質量比較
STX-15F |
383kg |
STX 160X | 392kg |
STX-15Fとの比較で、+9kgとなっているSTX 160X。
ここで注目してほしいのは、この数値は燃料やオイル、バッテリーなどの質量が含まれる整備質量ということ。加えて、燃料タンク容量の違いだ。
STX-15Fのタンク容量が62Lだったのに対し、STX 160Xは78Lと、16L増。1Lのガソリンの質量を0.74kgとすると、燃料だけで約12kgも増えている。
つまり船体は、3kgほど軽くなっているのだ。
電子制御スロットル
STX 160シリーズはスロットルレバーとAPS(アクセル・ポジション・センサー)を一体化することで、ジェットスキー初となる完全ケーブルレスを実現。STX-15Fとの比較で、操作荷重は半分程度になっている。つまり軽い!
ハンドル幅も広くなり、さらに取付角度も変更され、STX-15Fが上下方向へハンドルを切る感覚だったのに対し、STX 160はより自然な、前後方向にハンドルを切る感覚となっている。
グリップ形状も従来の俵型から、手に馴染むガングリップ形状に変更。リバースレバーは、STX-15Fが右舷側に対し、STX 160シリーズは左舷側となっている。
マルチファンクションメーター
ULTRAシリーズと同等の、大型マルチファンクションメーターを装備。
ストレージ
ストレージ容量は、STX-15Fの合計89Lに対し、合計134.4Lと大幅に拡大している。
グローブボックスは容量1.4Lと小型だが、これはスマホ収納用と割り切ったためだろう。内部にもフタをつけて防水構造となっているのがその証拠。盗難防止効果が期待できるイモビライザーも装備している。
飲み物は、ハンドル下にレイアウトされた2つのカップホルダーにどうぞ。
スライド&リフトシートにより、シートを取り外すことなく、バケツタイプのシート下ストレージにアクセスできる。バケツを外せば、バッテリーにもアクセス可能。
赤矢印の部分が、新設されたリアポケット。トーイングロープなどを濡れたまま収納できる。
リアデッキを拡大
バンパーを延長することで、リアデッキを拡大。さらに船尾から船首に向けて高くなるように角度をつけることで、フットエリアへの水の流入を抑える形状となっている。
水上での再乗艇時を容易にする上下2段のリアグリップや、STX-15Fよりも低い位置まで下がるリボーディングステップを採用している。
スペック
モデル | STX 160X |
価格(税込) | 145万2000円 |
全長 | 3152mm |
全幅 | 1181mm |
全高 | 1153mm |
整備質量 | 392kg |
燃料タンク容量 | 78L |
エンジン | 水冷4ストローク4気筒 |
弁方式 | DOHC 16バルブ |
ボア×ストローク | 83.0mm×69.2mm |
圧縮比 | 10.6:1 |
最大出力 | 112kW(152PS)[118kW(160PS)]7500rpm |
最大トルク | 144N・m(14.7kgf・m)[152N・m(15.5kgf・m)]6000rpm |
吸気方式 | 自然吸気 |
排気量 | 1498㎤ |
燃料供給方式 | 電子制御燃料噴射 |
潤滑方式 | 強制潤滑/セミドライサンプ |
推進方式 | ジェットポンプ 軸流式 単段 |
推力 | 4130N(421kgf) |
燃料 | 無鉛レギュラーガソリン |
定員 | 3名 |
- イモビライザー
- カップホルダー
- エレクトロニック・クルーズ・コントロール
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KAWASAKI JET SKI 2021年モデルラインアップ(HOT WATER Webマガジン)