ヤマハ『WaveBlaster』はどんな水上バイク?|現役オーナーが語る「TZシリーズの記憶」

発売から30年以上の時を経て
いまなお愛される名艇

1993年に日本で発売された700TZ(海外でのモデル名はWaveBlaster)は、当時最高となる701cc・63馬力の新型エンジンをひっさげて登場。

シート高を従来モデルより100mm高くしたことで独自のスタイリングを実現し、新設計のマルチコーンケーブハルが深いバンク角を可能に。

高出力エンジンと機動力の高いハルが生み出す走りは「オートバイのような乗り味」と評する意見もあり、新感覚のウェーブランナー(当時の日本での呼称はマリンジェット)として人気を博しました。

そしてこの700TZは、それまでのウェーブランナーにはなかった「スポーツモデル」という新たなカテゴリーを確立したモデルでもありました。

650SJ(1990年発売)
650TX(1991年発売)|700TZ発売以前のマリンジェットはスタンドアップかタンデムモデルの2択でした

2機種の後継モデルが登場後
2001年に惜しまれながら終売

1997年に発売された700TZT

レースでもその類い希なる性能でまたたく間に結果を残し、シーンを席巻。

世界中のライダーがそのパフォーマンスに魅了され、1997年にはツインキャブレター仕様で最高出力を66馬力(US表示は73馬力)に引き上げた700TZTが登場。

さらに1999年には784cc・110馬力(US表示は120馬力)への大排気量&ハイパワー化でフルモデルチェンジした800TZをリリース。

続々と後継モデルがリリースされましたが、船体の大型化や高出力化といった時代の移り変わりにともない、2001年モデルを最後にTZは惜しまれながらラインアップから姿を消しました。

1999年から2001年まで発売された800TZがシリーズ最終モデルに

現役オーナーが語る
TZシリーズの記憶

販売終了から実に四半世紀の月日が流れているわけですが、唯一無二の存在であるTZに魅了され、いまなおその走りを楽しむユーザーは少なくありません。

そんなTZを愛してやまないオーナーに、その魅力を語ってもらいました。

関 泰光さん
1964年11月12日生まれ。埼玉県出身。20代は二輪のレースでサーキットを走り、引退後の1991年にバスボート操縦のため旧4級小型船舶免許(現行制度では2級+特殊)を取得。その後水上バイクと出会い、1997年に700TZを所有。そのときのTZを今も大切に乗り続けている。ヤマハ主催のスラロームレースで5連覇を達成した「日本一速いTZ乗り」。


――TZとの出会いは?

当時一緒に遊んでいた友人が700TZを新艇で購入したので、それを乗らせてもらったのがきっかけでした。

もともとバイク乗りで、20歳から27歳ぐらいまでレースに出ていたんですけど、700TZの今までにないバイクのようなコーナリングが新鮮でありながら馴染みのある感覚で面白かったです。

右に左にひらひら傾けながら乗れるところが特に気に入りました。

――当時の700TZの評価は?

それまでにない「特殊なノリモノ」と感じていたひとが多かったように思います。

だからこそいまだにマニアックなファンがいるんでしょうね。

スタンドアップよりは安定感がありますけど、デッキからシートによじ登ってエンジンを掛けるあいだに倒れちゃうこともあって、なかには乗れないひともいました。

スタンドアップとタンデムモデルの中間ぐらいの立ち位置で、ヤマハに「スポーツモデル」という新しいジャンルが生まれたのも700TZからだと思います。

――最初から乗りこなせましたか?

スタンドアップしか経験がなかったですけど、意外とすんなり乗れましたね。

本当にバイクと似た感覚だったので、取っつきにくいと感じることはありませんでした。

お尻を船体の内側に落として足を開く、いわゆるハングオンをやってみたり。

膝が水面に引っかかってうしろに飛ばされたこともありましたけど(笑)。

当時の水上バイクとしては特殊なノリモノだったかもしれませんけど、僕にとってはただ「楽しいノリモノ」でしたね。

――TZの登場はクローズドレースの世界でもセンセーショナルでした

当時としては最高峰のエンジンを搭載していましたし、小回りも利きますし、ハルがしっかり水に食いついてくれるっていうのが700TZの強みだったんだと思います。

――TZをご自身で所有されたのはいつですか?

1997年ごろだったと思います。

あのころはランナバウトモデルがどんどん増えてきて、排気量も800ccだ1200ccだってハイパワー化してきていたので、当時乗っていたJS550を仲間がうしろからバビューンって抜いていくんですよ。

それがオモシロくなくて(笑)。

そこで頭に浮かんだのが700TZだったんですけど、偶然にも当時出入りしていたお店の片隅に置かれていたんです。

ボロボロで放置されていたので誰のものか聞いてみたら、「ほしいならあげるよ」って言われてすぐに持って帰りました。

ハル底がボロボロだったので直して、船体もキレイに塗装して、エンジンもオーバーホールして、なんとか乗れる状態にしたのを覚えています。

今所有しているのがその700TZそのものなので、かれこれ30年ぐらいの付き合いになりますね。

関さんが1997年から所有する700TZは今も現役

――その当時はどのような乗り方をしていましたか?

あのころはとにかく速く走ることしか興味がありませんでした(笑)。

仲間もブイ回りが好きだったので、みんなでブイを買って利根大堰で遊んでいました。

――どれぐらいの頻度で乗られていましたか?

毎週日曜日と祝祭日はかならず乗っていましたね。

多少の悪天候なら気にせず(笑)。

さすがに寒くなってきたら乗り納めていたんですけど、S-1(ヤマハ主催のスラロームレース)に出るようになったら冬でも関係なくなりました。

雪が降るなか乗っていたこともありましたからね。

それぐらいやらないと勝てなかったんです。


S-1とは?

1996年から2019年までヤマハ発動機が主催していたスラローム・タイムアタック。

統一のスラロームコースをマリンジェットで走りタイムを競うシンプルながら奥深いレースで、老若男女や技量を問わず多くのファンが参加。

2004年から地方予選を勝ち上がった選手で日本一を決める全国大会が開催され、コンマ1秒を削るために心血を注ぐライダーも少なくありませんでした。

 


――かなり長い時間をTZと過ごしてきたのですね

当時は僕だけじゃなくて嫁さんと娘も一緒に乗りに行っていたので、家族全員でそれなりの時間をTZと過ごしていました。

――おふたりも免許を?

持っていたのでそれぞれ乗っていましたね。

嫁さんは700TZが好きで、娘は800TZが好きでした。

ただ一緒に乗りに行っていたと言っても、僕はスラロームコースを作ってそこをひたすら走っていたので、家族のことはほったらかしでしたけどね(笑)。

嫁さんに「ご飯だよー!!」って呼ばれたときと給油のとき以外はずっと水上にいました。

そのあいだに彼女たちはそれぞれブイ回りをしていましたね。

――他のモデルに目移りしたことは?

基本的に傾く水上バイクが好きなので、大きいランナバウトはまったく興味がなかったんです。

スタンドアップは好きだったので、新しいモデルが出ると気にはなっていましたけど、S-1に出るならヤマハしか選択肢がありませんでしたから。

当時は生活の中心が完全にS-1だったので。

仕事でも家族でもなく、ど真ん中にS-1があって。

レースの日程と仕事が重なりそうになったら、仕事をズラしていました(笑)。

あのころS-1に出ていた人間はみんなそうでしたからね。

――S-1にはいつから?

2002年の秋に700TZでスポーツクラスに出ました。

S-1というレースがあることは2年ぐらい前から知っていたんですけど、どうやって出ればいいのかもわからなくて。

縁があってマリンショップエニシの平田さんが誘ってくれたのをきっかけに、エントリーしました。

――当時のS-1ではTZが最速でしたが、その理由は?

船体サイズとパワーのバランスによる旋回性能ですかね。

スキークラスのSJはTZより小回りが利きますけど、ターンでバランスを取るのが難しいし、ハイスピードで旋回するとテールスライドすることもあってTZよりタイムが出なかったのかなと。

700TZは63馬力のパワーとハル性能に加えて、スポンソンを後付けしたことでターン速度が優秀でした。

なおかつ小回りも利くので、最短距離でブイを回れるっていうのも最速だった理由ですね。

ランナバウトはパワーこそありましたけど、船体が大きかったのでタイムを伸ばすのは難しかったと思います。

2002年にS-1初出場した際の成績は21秒71で総合4位

――700TZにはスポンソンがありませんでしたね

船体を傾けてまずはハルの前側を水面に食わせて、次に後ろ足(外側)を踏ん張るんですけど、外ばっかり踏んでいると流れてしまうので、状況によっては少しだけ内側を踏むとハルの後ろ角が水を食ってグリップするんです。

そんな曲げ方を習得するためにずっと練習していました(笑)。

その過程も楽しかったですけどね。

――乗りこなす楽しさもTZの魅力ですね

スタンドアップよりも安定しているので入り口としては取っつきやすかったと思いますけど、誰でも上手く乗れるノリモノではなかったので僕にとってはそれも魅力でした。

今のシーンにはなくなってしまった、正真正銘の「スポーツ」というカテゴリーの水上バイクだと思います。

――800TZに乗り換えたのはいつごろですか?

2004年に700TZでS-1のチャンピオンを獲って、2005年の春に800TZを購入しました。

すでに新艇での販売は終了していたので、中古艇を必死に探しましたね。

S-1で勝つためには必要でしたから。

2005年のシーズン中にマシンが完成してからは800TZでS-1に出ていました。

ただ700TZも手放さずに所有していましたけどね。

――TZとの一番の思い出は?

やっぱりS-1ですね。

2004年に700TZで初めてチャンピオンを獲ったのも印象に残っているんですけど、2002年の初出場からチャンピオンになるまでの約3年間が一番楽しかったし記憶に残っています。

2004年から2008年までスポーツクラスで5連覇できましたけど、追われる立場よりも追いかけているほうが楽しかった。

食事中も車の運転をしているときも、寝ても覚めてもTZで速く走ることばかり考えていました。

2008年に5連覇を達成した際の記録は驚異の18秒15

――2008年に5連覇を達成して、翌年からスキークラスに転向されました

スキーで追いつきたいひとたちがいたのもあって、SJに乗り換えました。

そのタイミングで800TZは手放しちゃったんですけど、700TZはそのときも手放せませんでした。

――700TZを手元に残した理由は?

700TZはとにかく乗っていて楽しかったんです。

800TZはどちらかといえばランナバウトに近いんですよ。

エンジンパワーがあって速くは走れるんですけど、あまり傾かないし(笑)。

置き場所の関係もあってどちらかしか残せなかったので、迷わず700TZを選びました。

――その「楽しさ」とは具体的にどのような部分ですか?

コンパクトだから荷重移動でいろいろな動きができるんですよね。

自分が意のままにコントロールできるサイズ感で、速く走ることはもちろんフリーライド的な動きもできるのが700TZの楽しいところです。

――今はフリーライドも楽しまれていると

夏限定ですけど、海に行ってウェーブライドを楽しんだり、跳んだり跳ねたりして遊んでいます。

僕はエアターンぐらいしかできないですけどね(笑)。

船体が軽いから波のなかでの取り回しもいいですし、コントロールしやすいです。

小さい波でも遊べるサイズ感なので、フリーライドを楽しむのにも適した水上バイクだと最近気づきました。

――S-1時代とはTZとの付き合い方が大きく変わりましたね

こんなことになるとは思ってもみなかったですね。

今年は天気が悪くてあまり海には行けてないんですけど、去年の8月は一度もブイを回らず毎週フリーライドで遊んでいました。

ブイ回りならスポンソン、フリーライドならフットストラップと、遊び方に応じて装備を変更

――そんな関さんが愛してやまないTZの後継モデル「WaveBlaster」がUSヤマハから発表されました
※日本での発売は未発表

「なんだコレは!!」って衝撃を受けました(笑)。

800TZがなくなって少し経ったら新型が出るんだろうなと思っていたら、25年越しの後継モデルになりましたね。

楽しみで仕方ないですね。

――初見の印象を教えてください

スペックを見る限り700TZと800TZの中間ぐらいの全長で、重量は800TZより軽く、パワーは同じぐらい。

僕が好きな700TZに近い動きをしてくれるんじゃないかなと期待しています。

見た目はすごく傾いてくれそうですし(笑)。

写真で見たハルの形状から推測すると、TZらしい旋回性も受け継いでいそうな気がします。

速いだけではなく少しトリッキーな動きもしてくれそうなので、フリーライド的な動きも楽しめたらいいですね。

――スポーツカテゴリーの復活といえそうですね

まだ知らないひとも多いと思いますけど、昔TZに乗っていたライダーはみんな興味津々だと思います。

僕も写真とスペックしか見ていないですけど、あの長さで、あの幅で、あの高さにシートがあって、シルエットは完全にTZじゃないですか。

ワクワクしますよね。

最初に写真を見たときは、誰かが「こんなのあったらいいよね」ってAIで作ったのかと思いました(笑)。

まさかTZが復活するなんて思ってもいなかったので。

――今もっとも気になっているのは?

ハル底の形状ですね。

横とか斜めの写真でも今までにない形をしているように見えたので、ハル底がどうなっていて、どういう動きをするのか気になります。

もちろんあの見た目と名前ですから「TZらしさ」を期待しますけど、まったく新しい楽しさがあるならそれも大歓迎。

700TZのときに感じた「特殊なノリモノ」という感覚を味わえたら楽しそうですよね。

――イマドキの水上バイクしか乗ったことがないひとにも体験してほしいですね

これはまだ想像ですけど、TZらしい乗り味ならバイクの経験があるひとは絶対に楽しめると思います。

僕もそうでしたし、700TZが出たときに友人のバイク乗りを何人か誘って乗ってもらったんですけど、彼らは「スタンドアップよりもランナバウトよりもTZがいい」と言っていました。

だからWaveBlasterもTZらしい動きをしてくれるなら、今、街でバイクを乗っている若者にも刺さるんじゃないかなと。

何はともあれ、早く乗ってみたいですね。


取材協力

北総マリン
http://www.hokuso-marine.com/

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